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半導体、IPを見ていれば1〜2年後の携帯機器やセットが見えてくる

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これまでは家電の見本市としてのCES(Consumer Electronics Show)がITや通信、社会インフラ、など人間がかかわる分野に進出するように変わってきた。その技術の中心はやはり半導体である。半導体業界に長くかかわってきた記者生活のなかでもCESに初めて参加したこと自体、CES(図1)にも半導体が重要、という構造が浮かび上がってくる。

図1 CES会場の入り口

図1 CES会場の入り口


CESは本来セットメーカーの展示会だったのにもかかわらず、6社の基調講演(パネルディスカッションを除く)にセットメーカーが1社しかいない。この状況は、まさに部品メーカーが最終製品のカギを握っていることの証拠であろう。前日のマイクロソフトはソフトウエア部品メーカー、クアルコムとインテルは半導体メーカー、エリクソンのみがセットメーカーである。メルセデスベンツはクルマという総合機器のアセンブリメーカー、YouTubeはコンテンツインフラメーカーである。

こうして見ると、半導体メーカーが2社、CESの基調講演を行ったということは、いかに半導体がセットにとって重要かということでもある。だからこそ、半導体産業を弱体化させてはいけない(参考資料1)。競争力を養い、世界の企業と勝てるような戦略を立て変身する必要がある。もはやファブライト、ファブレス、IDMといった比較や区分けは全くナンセンスとなってきている。半導体がソリューションプロバイダへと変身することが、セットメーカーを支配し、市場を広げていくことになる。

クアルコムがCESで訴えたことは、スティーブ・ジョブズが生前言っていたように、「技術が重要なのではなく、技術で何ができるかが重要」である。CESはセットメーカーやアセンブリ、アクセサリメーカーなど技術と直接関係の少ない企業が多く集まる。ここに技術オンリーのクアルコムが出展したことは、技術で何ができるかを示したことだ。携帯電話用のこの半導体メーカーは携帯電話の将来を語り、その未来を提案している。Snapdragon S4という新しいアプリケーションプロセッサチップの話はほとんどしない。CESへの来場者には訴えることが少ないからだ。むしろ、B2Bの展示会であるMobile World Congress(MWC)で技術内容を発表すると述べている。近日中にテクノロジーの記事で紹介するが、クアルコムが数年前になぜMEMSのメーカーを買収したのか、ようやく私は理解できた。

CESは家電ショー、MWCは通信業界向けのショーである。昨年のMWCの入場料は7万円という破格の価格であり、この展示会には素人はとても入れない。だからこそ、MWCで携帯端末だけを追いかけると技術の本質を見失うことになる。MWCで出展される携帯機器には、すでに1〜2年前に発表された半導体が最新チップとして使われているのである。つまり、半導体をきちんとカバーしていれば、携帯機器やセットの将来が見えてくる。昨年秋のCEATECでも同様だった。半導体の方が一歩も二歩も先んじている。もっといえば、半導体向けのIPはさらに進んでいる。セットが出てくる時のIPは2〜4年前に発表されたIPなのである。だからこそ、IPを見ていればセットの将来がわかるという訳だ。

これは何も携帯機器や通信技術に限ったことではない。スマートグリッドやスマートコミュニティ、再生可能エネルギー、環境にやさしい技術、電気自動車、ヘルスケア・医療、教育などでも、技術のカギを握るのは半導体である。CESにおいて韓国の家電メーカーLGはスマートホームを展示し、その通信モジュール(RF+ベースバンド回路)を使ったスマートメーターを米ベライゾンが展示した。クアルコムはヘルスケアや教育問題を解決する半導体を訴えた。ファブレスのnVidiaは欧州の先進車Audiやランボルギーニを展示した(図2)。少しでも消費電力を減らしたい携帯機器は環境にやさしいことが訴える材料となっている。


図2 nVidiaのTegra-3を載せたランボルギーニ

図2 nVidiaのTegra-3を載せたランボルギーニ


そうなると、時代のテクノロジーをリードするのは、IPベンダーであり、半導体メーカーである。一昨年から筆者が半導体産業を手放すな、と訴えていること(参考資料1)は決して間違っていない。CESではさらに確信を深めた。

参考資料
1. 津田建二著「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」日刊工業新聞社刊 (2010年4月)

(2012/01/16)

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