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東芝メモリ買収狙う「日米韓連合」の海外での反応は?

東芝の半導体メモリ事業の売却差し止めを求めた米ウエスタンデジタル(WD)の訴訟で、米カリフォルニア州の上級裁判所は、7月14日、WDと東芝双方の主張を聞く尋問を行ったが、判断を28日に先送りした。その直後に、東芝は「次回審問までにメモリ事業の売却完了はいたしません。なお、当社は2018年3月末までのメモリ事業売却を目指しています」との公式コメントを発表した。

しかし、東芝メモリの売却はずるずると先延ばしされており、東芝は今年度末までに債務超過を解消するための資金を手にすることは難しいのではないかとの見方がすでに出始めている。というのも、WDは、米国の裁判所だけではなく、オランダのハーグに本拠を置く国際商業会議所傘下の国際調停裁判所へも提訴しており、東芝は、WDの納得する売却ができなければ、話がまとまらない状況になっているからである。

東芝は、6月21日、「日米韓連合」に優先交渉権を与える決定をおこない、6月28日の定時株主総会までに契約を完了することにしていたが、これも先延ばしされたどころか、東芝は、7月11日、優先権を与えなかった企業とも再び交渉を始めていることを明らかにしている。公式情報に加えて、それぞれの立場を有利にしようとするリーク情報が入り乱れ、猫の目のようにころころ変わる支離滅裂とも思える情報に経済紙(誌)読者はあきれ気味だろう。

日米韓連合を海外はどのように伝えているか?
ところで、優先交渉権を獲得した「日米韓連合」を海外の一般メディアはどのように伝えているだろうか。日本の経済紙を読んでいるだけではわからない、海外の見方を探ってみよう。

まずは、そのもとになる6月21日付け東芝の公表文書(参考資料1)を読み返してみよう。そこには「(株)産業革新機構、ベインキャピタル、(株)日本政策投資銀行からなるコンソーシアムを、TMCの売却に係る優先交渉権とすることに決定いたしました」(原文のまま)と書かれている。発表全文見渡しても、どこにも韓国やSK Hynixという言葉はない。この公式文書の終わりに記された「国外への技術流出懸念」の観点から決めたという説明も説得力がある。

と思っていたら、翌日の日本の新聞各紙は「日米韓連合」という言葉を使って報道した。米国Bain Capitalの背後にSK Hynxがいるのは自明なので、東芝の公式発表文書をそのままコピペせず、実態に即したまっとうな報道だ。それでは、海外ではどんな具合に報道されただろうか。

韓国では…….
まず韓国だが、一般紙の多くは「SK Hynixが東芝買収、Samsungに対抗」とか「SK Hynix を含む韓日米連合が東芝買収へ」という具合に、SK Hynixを主体とした伝え方をしている。前回お伝えしたように(参考資料2)、SK Hynix側は、オーナーである名門財閥SKグループトップ崔泰源(チェ・テウォン)会長(創業家の会長として全権をにぎる人物)が陣頭指揮して、東芝メモリを買収して、悲願の宿敵Samsung財閥に対抗しようとしている。日経新聞は、「朴正浩(パク・チョンホ)SKテレコム社長が7月7日に来日し、東芝や政府系機関と日米韓連合の買収条件を巡って関係者と協議した」と伝えたが、なぜSK Hynixではなく、通信オペレータが東芝と交渉するのか不思議に思った読者も多かったろう。

それは、実は、SK HynixがSKテレコム傘下の企業(SK Hynixの筆頭株主はSK テレコム)であり、さらには、朴氏は崔会長が最も信頼を寄せる腹心の部下であるという事情による。SK Hynixというよりは、SK財閥がSamsung財閥に対抗するために闘志を燃やしているように見える。

それでは、官邸や経済産業省が技術の海外流出防止と言っておきながら、なぜSK Hynixが買収の中心にいるのか? 6月21日のNHKテレビ午後9時のニュースで、桑子真帆アナウンサーが、一般人ならだれでも不思議に思うそんな素朴な質問を、経済部東芝取材班キャップにぶつけていたが、その答えは「私にもわかりません」。

この答えは、前回のコラムでもちょっと触れたが、週刊エコノミスト2017年7月11日号に「東芝救済陣営SK、8年前から続く深い仲」という記事が掲載され「東芝はWDとは企業内別居だが、SKとは遠距離恋愛中」ですでに将来を約束した仲である旨の記述があるので、詳しくはそちらに譲る。

台湾では……
台湾では、鴻海精密工業が東芝を買収できなかったと伝えているが、その速報が載った新聞を破り捨てながら「シャープ買収の場合も、最後には出資できた。東芝買収にはまだ50%以上の自信を持っており、あきらめてはいない。」と闘志をあらわにする鴻海の郭台銘董事長の力強いコメントも大きく伝えている。

日経新聞は、同氏が「買収交渉に経済産業省が介在していることに不満を漏らし『入札が不平等だ』と批判した」とさりげなく伝えるが、朝日新聞は、さらに踏み込んで「経済産業省の担当局長の実名を挙げて、『鴻海の邪魔をした』と、日本政府の姿勢を批判した」と伝えた。
台湾では、経済産業省の安藤久佳商務情報政策局長(当時。7月官邸人事で中小企業庁長官に就任)は悪名高い有名人として、テレビニュースや新聞には写真入りで繰り返し登場している。鴻海のテリー・ゴウ会長は「経産省安藤久佳は俺に逆らったから訴えてやる。シャープ同様、東芝は必ず買収して見せる」といきまく。郭台銘董事長も、シャープ買収の際にも同じ経産省局長から買わないほうが良いと言われたというエピソードを記者団に披露した。日本では、表に全く出てこない人物が、台湾では写真入りの実名で大きく取り上げられている。それにしても、鴻海は東芝と再び交渉を始めていると東芝も認めているから、鴻海の交渉術の巧みさが垣間見える。

米国では……
米国のマスコミでは、東芝の公式発表に従い「US-Japan consortium」という言葉も使われてはいるが、「Bain Wins Toshiba Bidding(ベインが東芝入札で勝った)」といった論調が目立つ。経済通信社のBloombergは「Bain-Japan Group」という言葉をつかっていたが、本稿著者が最も注目した記事は、この通信社のコラムニスト(元同社記者)、Tim Culpan氏の「愛国心で守る東芝メモリ、長期的解決策は見えているか」)という冷静な論評(参考資料3)である。東芝も日本政府も、投資ファンドと組めば技術流出防止に当面役立っても、その後、潤沢な資金で絶え間ない投資を続けることができないと企業は継続できないとし、「日本は日の丸を維持する急場しのぎの道を選んだのかもしれないが、それは長期的な解決方法を見いだしたことを意味しない」ので合理的な判断ではないと述べている。この観点から、Culpan氏は、WDやBroadcomや鴻海の方が戦略的に相乗効果を着実にもたらす合理的な選択肢だと主張している。

参考資料
1. 東芝メモリ株式会社の売却に係わる優先交渉権の決定について (2017/06/21)
2. 東芝メモリを買収したい企業・しない企業の裏事情から見えてくる業界勢力図 (2017/06/13)
3. Cuplan, T.「愛国心で守る東芝メモリ、長期的解決策は見えているか」、ブルームバーグニュース (2017/06/22)

Hattori Consulting International代表 服部 毅

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