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IoT革命は日本に追い風、一方中国の巨大投資は需要を無視?

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世界の半導体市場はスマートフォンの伸び悩みが明らかとなり、2016年についてはほぼ横ばいの40兆円が予想されている。スマホおよびタブレットの出荷状況によっては、若干のマイナス成長もあり得る展開。

しかし、全く予想外の事が起きている。半導体設備投資についてはITの成熟化および衰退にもかかわらず、前年を上回る7兆円以上の高水準が予想されているのだ。これを引っ張るのは、かねてより期待を集めていたIoT革命によるサーバー、物流、自動車などに新たな市場が開けてきたことだ。とりわけフラッシュメモリやDRAMは、2016年後半から10年に1度というほどの爆裂的成長を遂げることが予測されている。

これに加えて想像を絶する巨大投資を目論む中国勢の投資が一部始まっている。またインテル、サムスン、TSMC、東芝の投資はさらなる微細化追求に動く。電子部品メーカーのセンサモジュールさらには、DRAM搭載のCMOSセンサなど多種多彩のIoTバリエーションが出てきた。自動車は半導体とセンサの塊になることは間違いなく、パワーデバイスも再び活気を取り戻すだろう。

IoTは今や世界を巻き込む一大技術革新となり、いわば第4の産業革命が起こってきたといってよいだろう。既に工場などの生産現場ではIoTシステムを導入する企業は、少数ではあるが出てきている。トータルコストが20〜30%は下がったという声も多い。ただ、IoTについて考え違いをしている人たちも多い。現状の世界のITの構造は、ひたすらクラウドに集中し、端末は単なるツールというものだ。ところがIoTはその真逆の方法論であり、分散制御または自立制御の塊になる世界だ。

つまりは、大量生産方式とは異なりフルカスタムの多品種変量方式になっていくのだ。わかりやすくいえばスマホとは全く異る世界が登場しようとしている。メモリであってもロジックであっても末端の電子デバイス自体に自立的な判断機能を持たせてインテリジェンス処理を行う時代が近づいている。

しかも、IoTで重視されるのはアジャイル方式と言うものであり、これは言うところの「暗・黙・知」という知恵であり、いわば日本的なやり方が注目を浴びてくる。それ故にIoTは日本にとっては追い風になるとする見方が強まってきている。

しかしそれにしても、このIoT時代の到来にあってクレイジーホースとも言うべき中国の電子デバイスに対する巨大投資は、信じがたい計画だといえよう。

世界の太陽電池、LED照明を制した中国はなんと液晶分野に3兆円を投じ、15の新工場立ち上げに動いている。この結果として、サムスンなどの韓国勢そして台湾勢も続々と工場を閉鎖し始めた。15兆円しかない液晶のマーケットに中国だけで3兆円もの投資をすればどうなるかは火を見るより明らか。市場は混乱し、すべてのメーカーは儲からなくなり、サムスン、LG、台湾勢も大きなダメージを受ける。

その中国が、今度は半導体本格参入をアナウンスし、スマホやパソコンの国内生産および国産メーカー育成を踏まえて、ドメスティックな半導体メーカーを作ろうとしている。中国の巨額をもつ投資ファンドが群れ集まっている。

フラッシュメモリについては、XMCという新カンパニー が作られ、武漢政府が裏で動いている。凄まじい勢いで投資ファンドが作られ、なんと2.5兆円を投じ、新工場を立ち上げ2020年までに月産100万枚の300mm工場(20nm)をスタートさせる構想。台湾から多くのエンジニアを引き抜いている。しかし、フラッシュメモリマーケットは2015年のビット成長が業界平均で35〜40%増であったが、世界における市場金額はせいぜい3.5兆円しかない。この市場に対して2.5兆円を突っ込めばどうなるのか、市場原理がまったく分からない中国勢のやり方は問題であるとしか言いようがない。

DRAMについても、サイノキングという新カンパニーが作られ、合肥市が中心となってファンドを集めている。これまた1兆円を突っ込み、巨大工場を建設し中国におけるDRAMの内製化を図るという。こちらは日本から大量の技術者を集めている。しかし、DRAMの世界市場は2015年に10%伸びて5.5兆円になったとはいえ、過去のような爆発的成長がない市場。中国の投資計画はこれまた考えられない。中国の爆走を止める方法はないのだろうか。

産業タイムズ 代表取締役社長 泉谷 渉
(2016/07/12)

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