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夢はかなえるためにあるのではない、夢はそれを追いかけるためにあるのだ
〜東北大学・大見忠弘氏、福岡大学・友景肇氏の追悼に代えて

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「学問に裏打ちされた技術だけが生き残る。まがい物のカンに頼った半導体製造の時代は終わったのだ。そしてまた、真理の前には何人といえども頭を垂れる、という姿勢が大切なのだ」。

80年代後半のこと、あるカンファレンスでその人は怒鳴るように、また諭すように上記のような言葉を次々と繰り出していた。スゴイ人だなあ、というのが第一印象であった。また、語り口はとても大学教授のようには見えず、まるで幕末の頃の勤王志士という風情があったのだ。その人こそ、クリーンルームの革新を世界に発信し、半導体製造装置/プロセスの世界的権威になっていく東北大学の大見忠弘教授であった。

稀代の大酒飲みであり、喧嘩好きで知られる大見教授は、時として憂国の士でもあった。最近の口ぐせは「ニッポン半導体復活に真に貢献できる技術が見つからない。本当に申し訳なく思う」であり、誰よりも80年代後半に絶頂期の華を咲かせた日本の半導体企業の後退ぶりを心配していたのだ。

半導体で使う面方位が(100)面ばかりであることに異を唱え、もっともっと他の面の特性を追求すべきだという強い意見を持っていた。筆者の印象では、とにかくプラズマ、ガス特性にめっぽう強い人だという感じであったが、デバイス構造やデバイス理論にも非常に明るかった。そして、半導体にとどまらず、太陽電池、有機ELなどの世界にも研究範囲を拡げてゆき、独自の大見メソッドはいつだって国内外の半導体業界/学界を驚かせてきたのだ。

日本の半導体企業が自社のやり方にひたすらこだわることには、かなり懐疑的であった。「間違っていることを誉めるわけにはいかない!!」と歯に衣を着せないその発言は物議をかもし、筆者は夜の会席で何回となく大見教授を羽交い絞めにして喧嘩をお止めする一幕も多かったのだ。

その大見教授が突然に旅立たれた。自宅でお一人で亡くなられたのだ。それからしばらくしてのことであるが、九州にあって半導体実装分野で著名な福岡大学の友景肇教授がガンで壮絶な戦いをした末に天界に向かわれたのだ。筆者は友景さんにもまた随分とかわいがっていただいた。厳しいがとても優しい方であった。

友景教授の功績も数多いが、2015年に「部品の内蔵基板に関する国際標準規格」で世界初の快挙を成し遂げられたことが記憶に新しい。これは産学官連携のもとで開発した規格が国際電気標準会議(IEC)において国際標準規格として成立したものであり、スマホやウエラブル端末、さらにはIoT時代に対応するものとして高く評価されている。

友景教授、大見教授はともに「ニッポン半導体復活」を合言葉に骨身を削る研究開発の日々を過ごされた。お二人の夢は生前としてはかなうことはなかった。しかし、ここにきてソフトバンクの孫正義社長による英国ARMの買収(何と3.3兆円のM&A)、さらには東芝・ウエスタンデジタルによる世界初64層の3D-NANDフラッシュ製造開始および1.4兆円を投入する四日市新工場建設のアナウンス、さらにはCMOSイメージセンサで断トツ世界トップのソニーの「半導体1兆円構想」などニッポン復活につながる大きな出来事が続いている。

お二人の夢は後に続くものに残されたのだ。「死に物狂いで戦え」は大見教授の常とう句であったが、それを決して忘れてはならないだろう。ニッポン復活にかけた夢は終わらない。そしてまた、夢はかなえるためにあるのではない。夢はそれを追いかけるためにあるのだ。

産業タイムズ社 代表取締役社長 泉谷 渉
(2016/08/09)

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