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NIWeek 2017、コンバージェンスが進むIoT・AI・ADAS・5G・クラウド

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NIWeek2017(図1)では、Technology Convergenceという言葉が10年ぶりにNational Instrumentsのエグゼクティブから聞かされた。NIは、ソフトウエア定義とプラットフォームをまい進する測定器メーカーだ。30年前からプラットフォーム戦略をとってきた、いわば時代を先取りしてきた企業だ。なぜ今、またコンバージェンスか。

図1 NIWeek 2017の基調講演に登場した新CEOのAlex Davern氏

図1 NIWeek 2017の基調講演に登場した新CEOのAlex Davern氏


ITの新しいトレンドは、IoT、AI(人工知能)、5G(第5世代の携帯電話ネットワーク)、自動運転、そしてクラウドである。これらはそれぞれ発展すると同時に絡み合う。例えば、将来の自動運転にはIoT、AI、5G、クラウドの全てを使うようになる。NIは研究開発現場を対象としたモジュラー方式の計測器メーカーだ。だからこそ、将来のメガトレンドをしっかりつかみ、顧客と共に将来の成長を取り込む。将来有望に見えるテクノロジーが絡み合い、融合し合うことをテクノロジーコンバージェンスと表現した。

NIは、テストしたい回路をグラフィカルに構成しテストプログラムをグラフィカルに作成できるツールLabVIEWソフトウエアを1986年に開発した。回路ブロック図をメニューから引っ張り出し、ブロック図同士の配線を引きテストしたい回路を作成してシミュレーションできる。また、測定器そのものは、モジュール方式にしてオシロスコープやスペクトルアナライザ、任意信号発生器などのモジュール基板をシャーシーに差し込むだけでパソコンベースの測定器ができる。高価な測定器を何台も持たなくてよいため、大学や研究所で重宝されている。数十万人のユーザーがおり、設計や研究開発の部門を中心にエコシステムを作り、パートナー企業を構成している。

半導体産業は、NIから見るとこれからも成長する産業だ。ムーアの法則によってデジタル回路は10nmまでやってきて、半導体産業を行き詰ったかのように見る人は多いが、実はIoTもAIも5Gも自動運転も全てアナログやミクストシグナル技術がカギを握る。これらはまだ130nm、90nmが主流であり、ムーアの法則と共にこれから進展していく。CPU当たりのトランジスタ数は、1970年から2016年までに140万倍に増えた。この先も増えることは目に見えている。センサも同様、成長する。携帯通信は2000年のGSMは二つの周波数をサポートしていたが、今のLTEは20の周波数帯をサポートする。今後の5Gはさらに多くの周波数帯をサポートしなければならない。半導体・CPU・無線通信はこれからも絡み合いますます発展する。

今回の基調講演では新製品の発表が多かったが、これらのコンバージェンスする新技術のテストに欠かせなくなるものばかりである。主なものに絞って拾ってみる。5Gに欠かせない28GHz帯のミリ波の送受信機のテスターは、さまざまな規格、それもまだ流動的な規格に対応するためにソフトウエア無線(Software-defined radio)技術を使った。これは、デジタル変調の方式をソフトウエアだけで自由に変えられるという技術だ。世界各地の方式がまだ流動的であり、どの国でも使えるようにするためにソフトウエアを変えるだけでデジタル変調方式を変えることができる。5Gのベースバンド規格では、これまで以上の多くのプロトコルが必要になる(図2)。


図2 世界中の周波数スペクトルは多様 出典:National Instruments

図2 世界中の周波数スペクトルは多様 出典:National Instruments


欧州で3GPPが規格の検討に入っており、半年後をメドに決まるが、それまででも使える上に、各国で異なる周波数にも対応できるようになっている。NIは、5Gのミリ波技術として77GHz技術を昨年発表している。

新製品のミリ波テストヘッドは27.5GHzから29.5GHzという2GHzの帯域を持つ。従来持っているVST(Vector Signal Transceiver)とPXIシャーシーを使って送受信機を構成でき、最大2GHzの帯域幅でリアルタイム双方向通信リンクを確立できる性能を持つ。

もう一つは、長い間リリースしてきたLabVIEWの全面改定版「LabVIEW NXG 1.0」の発表だ(図3)。これまでLabVIEWはGUIをベースにしたシステム設計開発検証ソフトウエアとしてバージョンアップを繰り返してきたが、これからの新しい時代に向けてバージョンアップのコンセプトを刷新した。これまでは後方互換性を持たせながら機能を追加したり改良したりしてきたが、これからの機能追加などの容易な拡張性が大きな特長だという。これまではグラフィカルに設計図を描き検証すべき回路を構成しながらも、差別化するためのカスタマイズにはプログラムコードを書いてきた。NXG(Next Generation:次世代)版ではコード作成機能を残しながらもほとんどのカスタマイズでさえGUIベースで構成できるとしている。


図3 今後の拡張性を重視した新しいLabVIEW NXG 1.0 出典:National Instruments

図3 今後の拡張性を重視した新しいLabVIEW NXG 1.0 出典:National Instruments


同社は、NXG版と同時に「LabVIEW 2017」も発表したが、搭載している機能は全く同じ。しかし内部の言語は従来のC言語に代わりXMLで記述しており、拡張性が容易に持たせられるようになったという。両方のソフトを発表したのは、今が過渡期にあるからだ。これまでのLabVIEWに親しんできた設計者は、これまでの延長にあるツール「LabVIEW 2017」の方がなじむ。しかし、コードを書くことに興味のないエンジニアや研究者や、これまであまり使ったことのないエンジニアには、LabVIEW NXG 1.0版を勧めるという。

3つ目はTSN(Time Sensitive Networking)機能を搭載したシャーシーをCompactDAQシリーズにも搭載したことだ。この機能は、IoTや自動運転などで多数のセンサを融合するセンサフュージョンで威力を発揮する。たくさんのセンサを設置するIoTやADAS(先進ドライバー支援システム)などの応用では、全てのセンサの同期をとらなくてはならない。センサ情報が時間的にずれていてはフィードバック制御もセンサ同士の相関も無意味になってしまうため、センサ間の同期はマストである。

TSNはEthernetに準拠した時間同期の技術である。これまで産業機器ではEtherCATなどの規格が一部で使われてきたが、専用のネットワーク機器が必要であり、また標準のEthernetを搭載するIT機器には相互接続できないという問題があった。このため、同期用のケーブルを導入しEtherCATに変更する必要があった。NIはこれまでもPXIeシャーシーにはTSN機能を内蔵していたが、工業用IoTでよく使われるCompactDAQにも搭載し、IIoTを導入しやすくした。CompactDAQを使うことでケーブルコストが半減し、作業コストも80%削減するという。

NIのCEOには、エンジニアではないAlex Davern氏が就任し、創業以来の名物社長だったドクターTこと、James Truchard氏が昨年引退した。新しいテクノロジーのコンバージェンスが始まっており、今回のイベントのテーマを次世代につながる象徴としてNIは「ENGINEER NEXT」と定めた。

(2017/05/26)

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