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さらば民生、こんにちはビジネス応用−CEATEC 2017(1)

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CEATECが変わった。かつての民生用エレクトロニクスが影をひそめると共に、産業用や工業用という言葉ではくくれないような社会や商業という言葉が当てはまるようなB2B(Business to business)応用が目立つ。B2B向けに新規技術をいくつか紹介しよう。

そのトップを行くのは、これまで民生のカシオというイメージをがらりと捨てたカシオが工業デザイナー向け、とターゲットを絞った、凹凸を表現できるフルカープリンタを展示した。2.5Dプリンタと呼ぶその製品は、どのようなシートにも凹凸を付けて、その凸部だけあるいは凹部だけをそれぞれフルカラーで色付けできる。肌触りは文字通り、凹凸を感じる。凸部の最大の高さは紙基材で1.7mm、PET基材だと0.8mmだとしている。こういった「デジタルシート」と共に、建材やクルマのシート、ファブリックなどの用途(図1)で工業用デザイナーが使うツールとして売り込む。

図1 手触りで感じられる凹凸加工のプリンタで作った建材(左)とファブリック(右)

図1 手触りで感じられる凹凸加工のプリンタで作った建材(左)とファブリック(右)


カシオは、凹凸を付けられる原理も紹介した。このデジタルシートは、図2で示すように紙やPET樹脂を基材として、その上にアクリロニトリルの粒子の層を何層も塗り重ねたバンプ層、その上に印刷層などを被せておく。この上から凸にしたいパターンに描いたカーボンシートをかぶせ、赤外光で加熱する(図3)。内部のアクリロニトリル粒子が熱せられた場所だけ、膨張し膨らみ表面層を持ち上げる。熱の吸収を高めるために、凸にしたい部分にのみカーボンのパターンを描いていく。膨らんだ粒子の多い部分ほど大きく膨らみ、熱せられていない部分の粒子の大きさはほとんど変わらない。膨らんだ粒子は0.5mm2になるという。

凹凸ができると、表面のカーボン膜を除去し次に色塗りを行う。色を塗る場合にはカーボン膜のパターンと同じデータを使い、インクジェットプリンタによって色を塗っていく。

図2 紙やPET樹脂を基材として、その表面にアクリロニトリル樹脂層を何層も塗ったバンプ層、さらに印刷層、保護層と重ねる 出典:カシオ計算機

図2 紙やPET樹脂を基材として、その表面にアクリロニトリル樹脂層を何層も塗ったバンプ層、さらに印刷層、保護層と重ねる 出典:カシオ計算機


図3 印刷で凸部となるカーボンパターンの上から近赤外線照射で加熱するとアクリロニトリルの粒が膨らみ凸部を形成する 表面層をはがした後にカラー印刷する 出典:カシオ計算機

図3 印刷で凸部となるカーボンパターンの上から近赤外線照射で加熱するとアクリロニトリルの粒が膨らみ凸部を形成する 表面層をはがした後にカラー印刷する 出典:カシオ計算機


カシオはこの加熱とプリンタをセットにした機械を開発しており、2018年2月に500万円程度で発売する予定だ。

元々クルマのヘッドランプやテールランプを手掛けてきたスタンレー電気は、やはりビジネス用途を進めているが、CEATEC 2017では、ほぼまっすぐ飛ぶ並行光線のLED照明パネル(図4)を展示した。広がり角度はわずか2.5度と3.0度の製品を並べた。この照明パネルは、LEDランプ9個を1枚のモジュールとして用いて、1パネル、20Wで1km先まで照らすことができるという。1枚に赤、緑、青、白の4色を掛け合わせ、さらに調光も加えることで1677万色を表現できるとしている。

図4 広がり角わずか2.5度しかない並行光線のLED投光器(スタンレー製)

図4 広がり角わずか2.5度しかない並行光線のLED投光器(スタンレー製)


スタンレーは、この2.5度のパネルを使い北米のナイアガラの滝の夜間照明として採用された。従来の古いキセノンランプ設備を交換するために入札がかけられ、全14社からスタンレーが選ばれたという。広大なナイアガラの滝をライトアップするためには、最大600m離れた対岸から強い光を照射する必要がある。1枚当たり9個の高出力のLEDを備えたパネルを3ヵ所から1400台設置し照らしている。同社は、照明デザイナー会社と共に北米照明学会から2017年度イルミネーションアワードを受賞した。

この並行照明では、LEDチップ1個の光を全て集光し、前面にまっすぐ反射する半球状の反射板の設計がキモだった。この反射板の最適形状をCADで求めるのに苦労したという。

同社は赤外光(波長855nm)もまっすぐ飛ばし、夜間のクルマの運転で人や動物などを検知するナイトビジョン用も開発している。これは光の広がりの半値幅で3度以内の並行光を当てることで200m先の人も検出している。電力は0.29Wしか消費しないためヒートシンクが要らないという利点がある。防犯や防災にも使えそうだ。加えて、紫外線LEDも開発しており、波長265nmの遠紫外から365nm/385nm/395nm/405nmの近紫外まで揃えている。波長265nmはDNAの鎖を切れるエネルギーに相当するため殺菌に使える。

今年のCEATECも、このところバズワードとして使われるIoTのセンサやセンサモジュールがさまざまな部品メーカーから出展されてはいるものの、センサ自身に新規性はさほどなかった。その中で、ロームは加速度やジャイロなどのセンサや無線回路を搭載した小型モジュールを昨年まで提示していたが、今年はそのモジュールを使ってバイオリンの弓を弾く腕の動きをトレースして正しい腕の動かし方を練習するというデモを見せた。

NEDOのブースでは、神戸大学の永田真教授のグループは、IoTのセンサ信号が妨害されると、誤ったデータを扱うことで、重大な事故にもつながりかねない、という警告を示した。IoTのセキュリティは、これまでセンサモジュール、ワイヤレスネットワーク上、データセンターといった各レイヤーのセキュリティを確保することが言われていたが(参考資料1)、永田教授は、センサそのもののデータを混乱させる恐れについて問題提起した。これは、TOF(Time of Flight)を利用した測距技術で、発射光が対象物に反射して戻り光パルスの位相差を検出して距離を測るもので、ドローンやクルマなどでは非常に重要な技術になる。

ところが、発光デバイスと対象物の間に、もし悪意のある中継器を置けば、正しい距離のデータが得られなくなる。フェイク中継器はもっと遠くにあるデータ(位相をずらして長くする)を割り込ませれば、距離はウソのデータを示し、本来ぶつかりそうな距離にあるのにもかかわらず遠く離れていると判断することになる。永田教授は、センサ付近でのハードウエアセキュリティも守る必要性を提案している。

CEATEC 2017では、IoTもさることながら、時代を反映してやはりAIの展示も盛んだった。次回は、CEATECにおけるAIの活動についてレポートする。

参考資料
1. 工業用IoTへのサイバー攻撃対策をInfineonの専門家が伝授(2017/10/04)

(2017/10/05)

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