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ところがどっこい、ムーアの法則は生きていた

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半導体製品に集積されるトランジスタ数が年率2倍で増えていくという「Moore’s Law(ムーアの法則)」は実は今でも成り立っている。図1をみてみよう。縦軸は対数スケールであるから、対数で直線だということは年率何%あるいは何倍で伸びているという意味である。これは市場調査会社のIC Insightsがグラフ化した結果だ。なぜだろうか。

Transistor Count Trends

図1 半導体製品に集積されるトランジスタ数は毎年増加する ムーアの法則は成り立っている 出典:IC Insights


ムーアの法則の最初の定義は、「市販されている半導体製品に集積されているトランジスタの数は年率2倍で増えていく」というものだった。年率2倍が年率12〜18カ月、あるいは18〜24カ月というように数字は変わってきたものの、一定の成長率で伸びていることを表してきた。

ところが最近は、ムーアの法則という言葉が変質してきて、「7nmや5nmになるとムーアの法則は飽和してくる」というように、微細化を指す言葉に変わりつつあった。ITRS(International Technology Roadmap for Semiconductors)ロードマップの指針のように、微細化が限界に近づいたから、ムーアの法則は成り立たなくなってきた、と表現された。このため、「More Moore」や「More than Moore」と言われるようになった。ここではすでに「微細化=ムーアの法則」という言葉に変わってしまっていたのである。

微細化の指針は実は、IBM T. J. Watson Research CenterにいたRobert Dennard氏が打ち立てたスケーリング理論(最近ではデナードの法則という言葉も登場している)に基づいている。これは、MOSトランジスタのドレイン電流は、WµC/Lに比例する1次元動作近似をベースにして、トランジスタの寸法を表すW(ゲート幅)、L(ゲート長)、µ(キャリヤ移動度)、C(ゲート容量)を比例縮小したら、動作速度や消費電力がどちらも好ましい方向に行くことを理論づけたたものだ。つまり動作速度は上がり、消費電力は下がる。

このため微細化を進めれば進めるほど、動作速度は上がり、消費電力が下がっていった。半導体チップの集積度は毎年上がっていった。

最近になってトランジスタサイズが原子の大きさに近づいてきたために、スケーリング理論が成り立たなくなり、微細化はもう限界に近づいてきた、といわれるようになった。だからムーアの法則は限界、と言われた。

ところが、NANDフラッシュに見られるように、2次元的な微細化が限界なら、メモリセルを縦に積む3次元構造にすることによって集積度を上げるようになった。図1の中で最近の集積度の高いプロットはNANDフラッシュである。Intelのロジックのような製品はモノリシックに3次元構造を取りにくいため、やや飽和しているように見える。ムーアの法則はIntelにいたGordon Moore氏が提唱したものだから、Intelはマイクロプロセッサのプロットしか刻んでこなかった。このためムーアの法則は飽和傾向を示していたのである。

半導体のトランジスタ構造を3次元的に、モノリシックであろうとハイブリッドであろうと1製品内に集積して、ユーザーが使えるパッケージの形にすれば、まだムーアの法則は生きていると表現できる。ムーアの法則の定義にはモノリシックという言葉はない。だからこそ、HBM(High Bandwidth Memory)のような3次元ICも半導体製品に含めれば、まだムーアの法則は続くといえる。

参考資料
1. Transistor Count Trends Continue to Track with Moore’s Law, IC Insights (2020/03/05)

(2020/03/12)

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