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Infineon、SiC戦略転換、MOSFETで低コスト化狙う

Infineon TechnologiesがSiC戦略を大きく変える。これまでのJFETからMOSFETを充実させる方針を明らかにした。耐圧1200Vでオン抵抗11mΩ〜45mΩの製品、CoolSiCシリーズをサンプル出荷し始めた。さらにCreeの子会社Wolfspeed社を買収、SiC材料を手に入れ、SiCとGaN製品(GaN-on-SiC)のポートフォリオを拡大できる体制を整えた。

Infineonは、International Rectifierを昨年買収し、GaNやGaN-on Si技術を手に入れた。今回のWolfspeedの買収により、SiCウェーハそのものも手に入れた。SiCはまだ、トランジスタの段階であり複雑な集積回路にはなっていないため、シリコンの半導体ビジネスとは違い、垂直統合が力を発揮しやすい。ロームがSiCrystal社を買収したことも同じ理由だ。

Infineonは、SiC結晶ウェーハ会社を買収してもそのユーザーであるSiC半導体メーカーとはライバル関係になる。しかし、Infineonはどこ吹く風で、SiCウェーハ会社を半導体メーカーが買収した例は少なくないという。半導体メーカー側は、ウェーハメーカーに対して複数購買するのが常識であるから、その内の1社がたとえ競合関係にあっても、材料メーカーとしては気にせずSiCウェーハを売っていくとしている。

相次ぎ買収によりInfineonは、製品ポートフォリオを広げた。これにより、ハイパワー半導体と、高周波高出力半導体を製品ポートフォリオとして持つことができるようになる。耐圧が600VまでならGaNトランジスタ、1200VならSiCとそれぞれの役割分担もできている。高周波出力にはGaNトランジスタを基地局などに売り込む。

SiC半導体では、MOSFETを製品ポートフォリオに今回加えることができた。これまで製品化してきたSiC JFET(接合型FET)では、ノーマリオン型トランジスタ、すなわちゲート電圧をマイナスに引き込まなければオフできなかった。このため、ゲートにカスケード接続回路を導入することによって、単一電源でノーマリオフ動作ができるようにしていた。InfineonはこれまでJFETのSiCトランジスタで回路を組んできたが、カスケード接続用の回路もセットで必要になるため、やや複雑になっていた(参考資料12)。これに対してMOSFETははじめからノーマリオフ動作が可能なので、回路が簡単になる。

SiCトランジスタを販売している三菱電機やローム、富士電機などの半導体メーカーは、はじめからMOSFETを開発してきた。これに対してInfineonは開発に着手した1992年にはMOSFETとJFETの両方をはじめから開発していた、と同社Industrial Power Control部門Senior Director SiCのPeter Friedrichs氏(図1)は述べている。信頼性と品質を重視することによってJFETを最初に商品化した。しかし、SiC MOSFETの品質が上がり、JFETとそん色のないレベルにまで上がった。このため、回路的に簡単になるMOSFETをこのほど製品化した。


図1 Infineon Technologies Senior Director SiCのPeter Friedrichs氏

図1 Infineon Technologies Senior Director SiCのPeter Friedrichs氏


これまでJFETを使っていた顧客に対しては、MOSFETへの転換を勧めていくとしている。ただし、ノーマリオンを要求するニッチ市場もあるため、この顧客に対してはJFET製品も継続する。

今回、InfineonがリリースしたCoolSiC MOSFET製品には、TO247標準パッケージのトランジスタからEasy1B PressFITモジュール、8ピンのSOPパッケージ品などがある。数Aの小電流から数十Aまでの大電流まで揃えている。

狙う市場は工業用と自動車用、特に電気自動車である。これまでのSiC MOSFETはまだ広く使われるほどには至っていない。価格がSiのIGBTの10倍以上と高いからだ。そこでSiCを使うことで工業用機器インバータの効率が上がり、小型化が図れる(図2)というメリットをSi IGBTと比べて打ち出すようになってきた。


図2 インバータの周波数を上げ小型・高効率をSiCで実現 出典:Infineon Technologies

図2 インバータの周波数を上げ小型・高効率をSiCで実現 出典:Infineon Technologies


さらに自動車用でも、SiCならではのメリットを出してコスト・パフォーマンスの良さをアピールしなければ、市場に受け入れてもらえない。このため単体のトランジスタではなく、インバータなり実装した状態でのモジュールやサブシステムでSi IGBTと比べなければ採用されない。Infineonは、電気自動車のバッテリ容量(サイズ)とSiCインバータのコストを訴求ポイントとして探している(図3の左)。これは、インバータの効率が上がれば、電池の容量は少なくて済むため、トータルのシステムコストは下がることを求めている。また、逆にインバータの効率を上げ、バッテリのサイズを変えなければ航続距離を伸ばすことができる。自動車メーカーにSiCの良さを訴求することで、広めていこうとしている。


図3 インバータ効率を上げバッテリコストを下げる(左)、SiCパッケージは両面冷却(右) 出典:Infineon Technologies

図3 インバータ効率を上げバッテリコストを下げる(左)、SiCパッケージは両面冷却(右) 出典:Infineon Technologies


インバータにSiCデバイスを使う場合にチップの両面を冷却する(図3の右)ことで小型実装を可能にでき、システムコストを下げることができる。こういった両面冷却パッケージを開発し熱抵抗を下げる試みも行っている。

InfineonはSiC MOSFETでは日本勢に出遅れたが、トレンチMOSFETの品質が上がり、使いやすいMOSFETをリリースした。市場で受け入れてもらうためのシステム化の提案ビジネスによって、急速に追い越す勢いである。

参考資料
1. 最初の商品SiC JFETを使ったEasy1Bパワーモジュール−前編 (2011/08/18)
2. 最初の商品SiC JFETを使ったEasy1Bパワーモジュール−後編 (2011/08/19)

(2016/07/21)

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