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SPIマーケットセミナーで見えた、日本半導体の未来の市場シェア

去る8月25日に開催されたSPIマーケットセミナー「世界半導体市場、2021年後半を議論しよう」(参考資料1)にオンラインで参加してコメントさせていただいた。セミナーでは、参加者に4項目のアンケート調査が行われたので、セミナー参加されなかった方々にそれらを紹介するとともに、私見を述べさせていただくことにしよう。

第1問は、「成長のけん引役」は何かを尋ねる設問だった(図1)。


2022年にあなたの会社で成長するけん引役は何だと思いますか? / セミコンポータル

図1 来年の成長けん引役は? 出典:セミコンポータル


選択肢は、いずれも成長が期待されるカテゴリである。 しかし、回答者は選択肢を一つだけしか選べなかったが、全てを選びたかった方も少なくなかったであろう。回答者の多い順に、通信>コンピュータ>クルマとなっている。今年は、クルマや産業用が大きく伸びることが予測されているから、かならずしも成長率の順ではなく、最近の半導体の市場シェア順と同じになっている。つまり、参加者の勤務先あるいはその顧客の主要製品を反映しているのではなかろうか。

ちなみに2021年に前年比成長率が特に大きな半導体カテゴリ(IC Insights予測)は、 次の通りである(参考資料2)。

産業用特定用途ロジック 47%増
DRAM 41%増
自動車用特定用途ロジック  39%増
コンシューマ用特定用途ロジック 38%増
スマホ用MPU 34%増
自動車用特定用途アナログ 31%増
である。通信用は20%台で続いている。

第2問は、「半導体不足解消の時期」に関する設問である(図2)。


半導体不足はいつまで続くと思いますか? / セミコンポータル

図2 半導体不足はいつまで続く? 出典:セミコンポータル


過半の回答者が2022年半ばまでに半導体不足は解消すると答えている。2022年末までの21%と合わせると2022年内に不足問題が解決すると84%の回答者が思っている。2023年までずれ込むと答えた人は16%しかいないかった。

各国政府や企業からの強い要請で、ファウンドリは車載半導体に生産能力を割いたために、Omdiaの説明では、今年8〜9月から車載半導体の出荷が増えるという。しかし、せっかく前工程が終わっても、東南アジア各国のコロナ蔓延による都市封鎖で後工程工場操業に支障が出ている。従業員に多数の感染者や死者が出ており、パッケージされた車載半導体製品の出荷遅れが発生し、世界中の自動車工場が一時操業停止に追い込まれている(参考資料3)。

前工程の車載半導体優先のしわ寄せで生産割当を削られたほかの200mmレガシー半導体も著しく不足している。本稿を執筆してる最中にも、電子医療機器メーカーのフクダ電子では、半導体が入手できず、在宅医療機器の生産、更には在宅医療に支障が出ている、とテレビのニュースが伝えている。TSMC南京工場(ファブ16)増設中の28nmラインは2022年後半から量産を始めるので、車載半導体の不足はいずれ解決するだろう。

しかし、米国テキサス州の寒波による停電での車載工場の操業停止、ルネサスエレクトロニクスの車載半導体工場での火災による操業停止、コロナ蔓延による都市封鎖でマレーシアはじめ東南アジアの後工程工場の操業停止など、予期せぬトラブルが次々起きている。このような不測の事態や DXやGX(カーボンニュートラル実現のためのグリーントランスフォーメーション)で半導体が大量に必要な状況が生まれつつあり、不足解消の時期は遠のきつつある。米国アリゾナ州のTSMCやインテルの巨大工場はじめ、多くの新規建設ファブが2023年から2024年にかけて一斉に稼働を始めるので、シリコンサイクルは、DX/GXが爆発的に発展し半導体の大量消費でも起きない限り、2024年にはシリコンサイクルの供給過剰モードに入るだろう。

第3問は台湾のファウンドリであるTSMCの日本進出の可能性に関する設問である(図3)。


TSMCは数年以内に日本に前工程工場を建てると思いますか? / セミコンポータル

図3 TSMCの日本進出の可能性 出典:セミコンポータル

過半の回答者が、TSMCに日本に工場を建ててほしいが(経済合理性がないので)無理だと思っている。一方、日本政府の補助金および日本企業との共同出資で建てると思うと33%の回答者が答えている。単独で進出すると10%の回答者が思っているので、併せて43%の方が日本工場進出はあり得ると思っているということになる。

すでに一部のメディアは、TSMCは、ソニーと折半共同出資で熊本に工場を建てるとの憶測(経済産業省のリークと思われる)を伝ええている。さらには、トヨタ自動車グループのデンソー(車載半導体)も資本参加の方向で調整中で、三菱電機(パワー半導体)も資本参加の意向があるとも伝えている。

一方、TSMCは、すでに公式に、日本に最先端プロセスは用いない「スペシャルティファウンドリ」を建設することを具体的に検討中で、「製造コストが台湾の場合より高くなる分をどのように補償してもらうか日本勢と毎週打ち合わせている」と7月末の株主総会で踏み込んだ発言をしている(参考資料4)。経済合理性の見地からは、TSMCの日本における売上額が全売上額の4%しかなく、税制優遇もなく電気代がバカ高い日本に工場を建てる理由は全くないが、日本政府の大盤振る舞いの優遇策(工場建設に1兆円規模の補助金?) および共同出資パートナーからの赤字補填策次第では、単独出資という基本方針(注1)もどこへやら、台湾海峡にまつわる地政学上の理由やインテルとの顧客奪い合いの一環で日本進出も十分ありうるだろう。

第4問は、日本の半導体産業の将来像に関する設問である(図4)。


日本の半導体企業の市場シェアは10年後の2030年にどうなると思いますか? / セミコンポータル

図4 日本企業の市場シェア 出典:セミコンポータル


日本企業の市場シェアは、経済産業省が2021年6月に発表した半導体戦略に関する公開資料に示されているように過去30年の減衰直線を外挿すると2030年にはゼロになってしまう。過半の回答者ー多くは現実に半導体関連の業務についている現役の方々と思われるーがゼロに向かって減少すると実感に基づいて回答している。今後も今と大して変わらないと45%の方が思っており、シェアが向上すると思っている回答者はたった5%しかいない。経済産業省は、2030年に市場シェアがゼロにならぬように歯止めをかけ、シェア向上を目指してTSMC誘致はじめ諸政策を打とうとしているが、30年に及ぶ愚策の連続の経済産業省に日本半導体復興などできっこないとみているのだろう。キオクシアやソシオネクストはじめ日本勢も頑張っているとのコメントも識者から出たが、メガトレンドに乗る海外勢の成長率の方がはるかに大きければ、日本のシェアはさらに低下してしまう。

本稿執筆中に、米Western Digitalがキオクシアを9月中に買収する可能性が高いと米Wall Street Journal紙がスクープしている。もしもこれが本当なら、キオクシアの売上額は、今後は米国の売上額に計上されることになる。Samsungは、10兆円を超える現金を使って、今後、M&Aに力を入れると宣言しているが、車載半導体分野充実のため、車載半導体メーカー買収を検討中で、そのリストにNXPと並んでルネサスエレクトロニクスが入っているとのうわさが韓国内で流れている。もしもこれらが本当なら、経済産業省の描くワーストシナリオが現実のものになってしまいそうだ。

さらに、ルネサスエレクトロニクスは、3月に滋賀工場(元関西日本電気)シリコンデバイス製造ラインを閉鎖したのに続き、将来有望だったはずの化合物オプトデバイス製造ラインも8月末に閉鎖された。JR石山駅前の滋賀工場敷地は大阪の不動産業者に売却されることが決まっている。ルネサスは山口工場(元山口日本電気)を来年6月に閉鎖すると今年7月に発表している。日の丸半導体産業の凋落は現在進行形である。梶山経済産業相は「半導体は戦略物資であり、半導体が日本の命運を握っている」と言い、自民党の半導体戦略推進議員連盟の甘利会長は、「半導体を制する者は世界を制する」と勇ましいことを言うが、このままでは日本は沈み行く船と命運を共にすることになってしまう。


1. 単独出資:TSMCが成功した一因は、専業(Pure-Play)で中立だからである。Samsungのように、そしてこれからファウンドリをはじめるIntelのように兼業では、両社のライバル企業は、これらの兼業ファウンドリに製造委託するのを躊躇するだろう。同様に、合弁企業形態のファウンドリでは、オーナーのライバル企業は秘密漏洩を恐れて製造委託しないだろう。かつて、パナソニックとタワーセミコンダクタは日本に合弁のファウンドリを運営していたが、結局パナソニックは赤字続きの半導体ビジネスから完全撤退してしまった。

参考資料
1. SPIマーケットセミナー「世界半導体市場、21年後半を議論しよう」 (2021/08/25)
2. ”Robust Growth Rates Expected For Nearly All IC Products in 2021”, IC Insightsニュースリリース(2021/08/04)
3. 服部毅、「車載半導体の供給不足、背景にある東南アジアでの新型コロナ感染拡大」、マイナビニュースTECH+ (2021/08/21)
4. 服部毅、「現実味帯びてきたTSMCの日本ファブ計画、果たして半導体復興につながるのか」、セミコンポータル (2021/08/03)

Hattori Consulting International代表 服部毅

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