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日本への還元が不透明な経産省の「国際連携」という名の外資誘致の罠

5月下旬以降、企業誘致の本命が米国勢であることを裏付けるニュースが相次いでいるので、前回のブログ(参考資料1)の続編としてその後の動向をここで整理しておこう。経産省がこれこそが日本半導体復興の切り札としている「国際連携」という名の猪突猛進ともいえる外資誘致の問題点にも言及する。

図 経済産業省総合庁舎本館

図 経済産業省総合庁舎本館


日米連携し次世代半導体の共同開発というが…

米国のバイデン大統領は、5月23日に東京で岸田首相と会談し、「両首脳は、日米商務・産業パートナーシップ(JUCIP)において採択された『半導体協力基本原則』に基づき、次世代半導体の開発を検討するための共同タスクフォースを設立することで一致した」(外務省発表の共同声明文による)。 この共同声明で「半導体」というキーワードが登場したのは、この文脈の中だけだったが、おそらく関係者以外の国民にはさっぱりわからない内容だろう(参考資料2)。

日米首脳共同声明に唐突に出てきたJUCIPというのは、昨年11月に、萩生田経産大臣がレモンド米商務長官と東京で会談を行った際に日米両国の産業競争力強化のために設立することを決めた会議体のことである。JUCIPにおいて採択された「半導体協力基本原則」とは、今年の5月連休に渡米した萩生田大臣がレモンド長官と会談した際に2国間の半導体サプライチェーンの強靭化で協力する合意を指す。実は、すでに昨年4月、ホワイトハウスでの菅首相(当時)とバイデン大統領との首脳会談後の共同声明で「半導体を含む機微なサプライチェーンについても連携し、日米両国の安全及び繁栄に不可欠な重要技術を育成・保護する」との一節があるが、これが1年かけてやっと動きだそうとしているということだ。

今年5月の日米首脳共同声明で新たに明らかになったことは、次世代半導体の日米共同開発に向けたタスクフォース(作業部会)の設立である。詳細は、7月下旬に予定されている日米経済政策協議委員会(経済版「2+2」)閣僚級協議の場で具現化することになっているようだ。

しかし、日米連携した共同開発といっても米国ではすでにIBMが世界初となる2nmデバイス開発に成功しており、 Beyond 2nmプロセスの開発も進んでいる。インテルも同様に「Intel 18A」(1.8nm)プロセスを開発途上にあり、おまけに同社のゲルシンガーCEOは、昨年、IDM2.0宣言をした際、IBMと最先端半導体研究開発で今後密接に協業することを発表している。ゲルシンガー氏は、今年4月初旬にプライベートジェットでひそかに来日し経産省高官と面談したが、この事実は公表されていない。バイデン大統領のSamsung平澤事業所訪問の10日後の5月30日、ゲルシンガー氏は、今度はひそかに訪韓してSamsung本社を訪問し、同社幹部と半導体だけではなく、家電・通信製品などを含む多様な分野での事業協力を話し合ったという。「米韓半導体サプライチェーン同盟」は早くも稼働を始めている(参考資料2)。

一方、日本はというと、ロジック製造で欧州や中国にさえ後れを取っている。40nm未満の量産はおろか、試作する施設が日本には皆無であることが象徴している。こんな状況では、日米対等な次世代半導体技術開発などありえないだろう。経産省の文書には、「日米協業を通して日本側が技術の習得に努める」と書かれているが、したたかな米国勢は慈善事業団体などではない。

日本に2nm半導体製造拠点を整備というが…

日本政府は、2025年度にも2nm製造拠点を国内に整備する方針を固めたと6月15日のNikkei Asiaおよび日経新聞が報じた。自民党半導体戦略推進議員連盟の甘利会長は、昨年12月に開催されたSEMICON Japanの基調講演で、「すでに米国企業―ここでは具体的な社名を公表できないが―とポスト2nmファブの誘致の話し合いを行っている」ことを明らかにし「我が国の半導体復興に今後10年間で7〜10兆円必要だ」と述べていたので驚くにはあたらない。自民党半導体議連は、2022年5月24日、半導体の製造基盤強化のために「10年で官民あわせて10兆円規模の投資」を求めると決議したが、すべてが甘利会長の思惑通りに事態が進行しているように見える。

日本への還元不透明な「国際連携」の罠

日経新聞は2022年6月25日付けで、「TSMCに巨額支援、日本企業へ還元不透明」と題する調査報道記事を掲載した。経産省ははじめから「TSMCへの巨額資金による誘致」ありきで話を進めてきたと記事は指摘している。本来ならば、巨額支援に見合うだけの「見返り」が日本にどれだけあるのかに議論を尽くすことが先決だがそれが全く欠落している。つくばへのTSMC研究所誘致についても納得のいく説明がない。とくに、補助金による支援が日本にどう還元されるかという最も肝心な点も曖昧なままであると記事は指摘している。しかも、助成事業の成果や知的財産はTSMCに帰属しており、TSMCが日本の国費を使って研究開発を進めて成果を上げても、日本への還元なしに技術を独占し、台湾に持ち帰れる契約だという。経産省が巨額資金で誘致した「熊本」についても同様に不透明だとし、「日本が掲げる半導体の産業政策には、再検証の余地が多々ある」と結論付けている。

萩生田経産大臣は、「前任者たちの自前主義はまちがっていたから、国際連携で行く」と再三にわたり述べているが、ふたを開けてみたら「国際連携」の実態は、誘致したい一心の経産官僚の足元を見た強かな外資のペースに巻き込まれてしまっている。いままで、半導体コンソーシアムも国プロも一部は国際連携してきたが、成果は外国勢に吸い取られただけで終わっているのがほとんどだ。国際提携と称して海外勢を誘致さえすれば日の丸半導体復興が可能になると考えるのは早計である。強かな外国勢への対応や、誘致から復興へ至る道筋を含め産業政策を再検討する必要があろう。 

今月下旬から、日米連携で日米次世代(Beyond 2nm)半導体共同開発、さらには製造拠点の国内構築なる取り組みが動き出すらしい。すでに本欄で「経産省の日の丸半導体復活戦略、過去の失敗を繰り返すな!」(参考資料3)、「外国勢と組みさえすれば国プロは成功すると相変わらず勘違いしていないか」(参考資料4)、「国家ビジョンなき半導体政策では日本を救えない:まず何をすべきか」(参考資料5)など、様々な指摘と提言もしてきたが、誘致から日本半導体復興への道筋は不透明で、「半導体の失われた30年」はさらに40年になってしまわないか懸念される(参考資料6)。


本稿は、2022年6月末日の情報に基づいており、その後情勢が変化している可能性があります。

参考資料
1.服部毅、「日本政府の企業誘致の本命はTSMCではなくIBM/Intelだ!」、セミコンポータル (2022/05/06)
2.服部毅、「訪韓のバイデン大統領がサムスン工場へ直行した戦略的意図」、週刊エコノミストonline版 (2022/06/20)
および服部毅、「半導体提携:バイデン氏がサムスン工場へ、「米韓」と「日米」に大きな差」、pp.28-29、週刊エコノミスト誌、2022年6月30日号、pp.28-29.
3.服部毅、「経産省の日の丸半導体復活戦略、過去の失敗を繰り返すな!」、セミコンポータル (2022/02/01)
4.服部毅、「外国勢と組みさえすれば国プロは成功すると相変わらず勘違いしていないか」、セミコンポータル (2021/10/13)
5.服部毅、「国家ビジョンなき半導体政策では日本を救えない:まず何をすべきか」、セミコンポータル (2021/07/02)
6.服部毅、「日の丸半導体産業の過去・現在・未来」、電子デバイス産業協会機関誌(NEDIA Magazine) No.22 (2022年7月発刊予定)

Hattori Consulting International代表 服部毅

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