日本の半導体製造装置産業は本当に強いのか?不都合な真実!
経済産業省は、「日本の半導体産業は30年以上にわたり凋落してきたが、これに対して日本の半導体製造装置メーカーや材料メーカーは、世界市場で圧倒的なシェアを有しており、半導体製造サプライチェーンにおいて不可欠な存在となっている」と半導体・デジタル産業戦略検討会議資料の最新版(2023年5月30日付)でも述べており、多くの人たちもそのように信じてきた。果たしてそうだろうか。
去る6月にオンライン開催された「米中貿易の行方と半導体産業への影響」と題する、SPIフォーラムで、三菱UFJ モルガン・スタンレー証券シニアアナリストの和田木哲哉氏が日本の半導体製造装置の行方と題して講演したが、その中で図1を示した。世界中の半導体製造装置メーカーの本社所在国別売上高の過去の推移を40年近くにわたり調査したグラフである。
2022年の半導体製造装置メーカーの本社所在国別売上高は、米国勢が50%、日本勢が23%、
欧州勢21%、韓国と中国は数%だった。世界市場で圧倒的なシェアを誇るのは、米国勢であって、日本勢はその半分にも満たない。米国勢は過去30年以上にわたり50%±10%の範囲内で安定したシェアを維持してきたが、日本勢は1990年のシェア48%をピークに30年後には半減してしまった。日本の半導体デバイス産業の凋落に連動しているように映る。
図1 世界半導体製造装置メーカー本社国籍別売上高の市場シェア 出典:三菱UFJモルガン・スタンレー証券:和田木氏の許可を得てSPIフォーラム配布資料を転載
過去4年間シェアを上げ続けている米国勢に対して、日本勢は過去4年間にわたり単調にシェアを落としている原因について、和田木氏の分析によると、「成長率の高いプロセス分野別装置売上高ランキング(非公開)で、日本装置メーカーはどの分野でも首位には届かず、2位に3社、3位に1社が入っているに過ぎないという。
つまり、日本装置メーカーは、成長著しいボリュームゾーンで戦えていないということである。日本は、伝統的に、酸化拡散(熱処理)装置や洗浄装置やコータ―デベロッパ、測長SEMなどの分野の市場シェアは非常に高いが、これらは成長著しい分野でも市場規模の大きな分野でもない。
装置メーカーランキングに日本企業は4社入るも日本勢シェアは19%
世界半導体製造装置メーカー売上高ランキングトップ10を表1に示す。伝統的に、本表は、米国の半導体市場調査会社VLSI Researchが発表してきたが、同社がカナダのTechInsightsに買収されて以来、公開をやめてしまっていた。今回、VLSI Research 元会長(現TechInsights 副会長)Dan Hutcheson氏の厚意で会員限定データの転載を許可していただいた(参考資料1)。
表1 2022年世界半導体製造装置メーカー売上高ランキングトップ10 出典:TechInsights
米Applied Materials、オランダASML、米Lam Researchが世界の3大装置メーカーである。東京エレクトロンと米KLAを含めて5大装置メーカーと呼ぶことも多い。6位以下との差は極めて大きく、下位グループが束になってもトップグループへの浮上は困難だろう。
トップ10には日本企業が4社エントリしている。4位東京エレクトロン、6位アドバンテスト、7位SCREEN、9位KOKUSAI ELECTRIC(海外資本が所有しており、Applied Materials への売却に失敗)である。しかし、10社の売上高を本社所在国別で集計してみると、米国43.3%、オランダ37,5%、日本19.2%で日本勢の売上高シェアは2割に満たない。和田木氏は、「日本の装置メーカーは、今や米国勢に大差をつけられ、(今後、巨額のEUVや高NA EUVの売上急増が予想される)欧州勢にも抜かれる寸前で、もっと緊張感をもって早く対策を考えないといけない」と警鐘を鳴らしている。日本企業が現状維持に終始していると、不況期にこそ、次なる好景気に備えて革新的な研究開発や世界規模で施設拡張に乗り出している欧米勢(参考資料2)にさらに差をつけられてしまいそうな状況だ。
参考資料
1. 服部毅、「2022年の半導体製造装置メーカー売上高ランキングトップ10、日本勢は4社ランクイン」、マイナビニュースTECH+ (2023/06/07)
2. 服部毅、「AMAT、40億ドルを投資し最先端半導体プロセス・装置の研究開発施設を建設へ」、マイナビニュースTECH+ (2023/05/24)