台湾TSMC社のファブ23はどこにある?ファブ23フェーズ1とは何?
台湾新竹市に本拠を構える世界最大のファウンドリであるTSMCのファブ23はどこにあるかご存じだろうか?同社は、現在、ファブ23の製造エンジニア(Fab23 Manufacturing Manager)を世界中から募集しているが、その 求人広告の一例を図1に示す。

図1 TSMCの英文の求人の一例 出典:TSMC Website:LinkedInなどの世界中の求人サイトにも掲載されている
説明文の冒頭部分は青い文字で「TSMC Kumamoto, Japan is looking for」と表記されていることから、Fab23というのはTSMCの熊本工場であることがわかる。つまり、TSMCにとって熊本工場は23番目のファブというわけだ。不思議なことに、日本国内向けの日本語での求人広告にはFab23の表記は見当たらず、代わりにTSMC熊本とかJASM(Fab 23を運営するTSMCとソニーとデンソーの合弁会社)と表記されている。
それでは、他のファブはどこにあるか調べてみよう。以下に筆者が調べたTSMCファブ一覧を示す。
編集注:Fab 10とFab 11が入れ違っていたので訂正いたしました。
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図2 TSMC熊本工場全景(完成予想図):左上隅に見える建屋はソニーの孫会社であるソニーセミコンダクタマニュファクチャリング熊本テクノロジーセンター 出典:JASM
以上がTSMC前工程のファブ一覧である。このようにTSMCは国・地域によらず設置順にファブに番号を割り振っていることがわかる。ただし、台湾や日本で忌み嫌われる4(死を連想)や一部の西洋人が嫌う13や17などの忌み数は欠番となっているのは興味深い。
TSMCの直近の決算報告書(2023年第3四半期)によると、同社の売上額の過半は7/5/3nmといった先端プロセスを用いた製造による(図3)。しかし、会社全体では、前世紀に主流だった「0.25μmおよびそれ以上」の超レガシープロセスまで広くカバーして顧客のあらゆる要求に応えており、6インチ(150mm)ファブがいまだに稼働している。
図3 TSMCの微細化プロセス別売上高比率(2023年第3四半期) 出典:TSMC投資家向け資料
日本では、同じ敷地(キャンパス)内にある製造棟を順にファブ1、ファブ2、...(キオクシアの場合は第1製造棟、第2製造棟...)のように呼ぶ。上表でも便宜的に第1棟、第2棟のように表記したが、実はTSMCでは同じ敷地内にある製造棟はすべて同一ファブ名で、Phase (またはP) 1、2、3 のように呼んで区別する。例えば、Fab12にはPhase1から9までの研究・開発・製造棟が集合しており、建設中のFab 20 にはPhase 1~4の4つの最先端製造棟が計画されている(図4参照)。TSMCは、顧客の製造ライン認証がファブごとに行われることになっているので、ファブの数を増やしたくない事情があるようだ。
図4 台湾新竹地区のTSMCのファブ12および20の建屋配置図 出典:TSMC
熊本に第2棟目が既存の製造棟の隣接地に来年起工予定と言われているが、この場合、TSMC社内および海外メディアはFab 23 Phase2と呼ぶことになる。しかし、おそらく日本国内では、TSMC (あるいはJASM)熊本第2工場と呼ばれることが多いと思われる。噂では、TSMC内部では日本に第3工場(Fab23 Phase3 )や第4工場(Fab23 Phase4)も検討し、経済産業省と補助金交渉さえ始めているらしい(参考資料1、2、3)。
TSMC熊本工場は、Fab23 という呼称が示すように、同社台湾本社のグローバルな規模の半導体製造戦略およびグローバルサプライチェーンの中にしっかりと組み込まれている。日本政府が巨額補助金を支給するからといって、日本のための工場などと思いこんでいるとグローバルな半導体産業を取り巻く厳しい状況を見誤ることになるかもしれない。
参考資料
1. 服部毅、「TSMCが熊本に先端半導体製造向け第3/第4工場の建設を計画か?」、マイナビニュースTECH+ウェブサイト (2023/11/22)
2. 服部毅、「TSMCの熊本第3工場は渋滞回避目的で空港近くに建設される可能性」、マイナビニュースTECH+ウェブサイト (2023/12/04)
3.「TSMCは早くも第4工場『半導体狂想曲』に期待と不安、熱狂の陰で忍び寄る課題」、ニュースイッチ(日刊工業新聞ウェブサイト)(2023/09/06)