ルネサスは過去と決別し新たな門出、Nvidiaは圧倒的一人勝ちで業界業績つり上げ
去る2月15日に恒例の「SPIマーケットセミナー」がオンラインで開催された。今回のテーマは「2024年の世界半導体市場、回復へのシナリオ」。このセミナーの最後に、ホットな話題として取り上げられていたルネサスエレクトロニクスとNvidiaについてコメントさせていただいた。ほんのわずかな時間しか残されていない中での舌足らずの発言だったため、本稿で補足させていただくことにする。
ルネサスは過去と決別し大躍進めざし新たな門出
ルネサスは、セミナー開催日の15日の午前中に、世界中の多数の企業にプリント基板の設計ソフトウエアをクラウド上で提供する米Altium(アルティウム)社を買収し、完全子会社化すると発表した。買収金額は91億豪ドル(約9000億円)と巨額で、ルネサスとして過去最大の買い物となった。
図1 ルネサスCEOの柴田英利氏(左)、Altium CEOのAram Mirkazemi氏(右) 出典:ルネサスエレクトロニクス
ルネサスが、先端パッケージの基板配線設計やリファレンス設計にAltiumのツールを利用するためだけなら、9000億円も出して、年商400億円にもみたない企業を買収する必要はなく、利用手続きをするなり、協業契約を結べばよい。実際、ルネサスは、今までそのような契約を結んでいた。Altiumを独り占めにしてしまっては、各国の(特に多数のユーザーをかかえる中国の)独占禁止法規制当局が許可しないだろう。
ルネサスの柴田英利社長は、「今回の買収は(従来の半導体企業の買収とは)異質であり、将来への重要な一歩」と2月15日の会見で述べた。新しいクラウドベースのプラットフォーマーとして新たなビジネスをポートフォリオに加えて「伝統的な半導体メーカー」から脱皮し、ハードとソフトが融合した新たなシリコンバレー流ビジネスモデルを構築しようとしているように見える。
折しも、ルネサスの旧親会社のNECと日立製作所が、今まで保有していたルネサス株を2024年1月にすべて売却したのに続き、三菱電機も、保有するルネサス株を2024年2月に全て売却した。この3社は、株売却で得た資金を半導体以外のビジネスに使うのだという。これによって、旧親会社3社全てがルネサス株を完全に手放したことになった。つまり、ルネサスは、旧親会社との資本関係が解消され、しがらみなくシリコンバレー流の積極経営の企業として新たな道を切り開くことになるだろう。と思っていたら、ルネサスは、3月1日、インドに設立されるOSAT(Outsourced Semiconductor Assembly and Test)企業に6.8%資本参加することを発表した。今後も、ハード、ソフト両面でM&Aや資本参加を積極的に継続し事業を新たな方向へ展開していくだろう。
Nvidiaは圧倒的な一人勝ちで世界首位となり業界業績を吊り上げている
このところ、世界半導体産業でトップ争いを続けてきたIntelとSamsungはじめ、多くの半導体企業は、2023年にマイナス成長に陥った。そんな中、需要急騰の生成AIチップで独走する米Nvidiaは、売り上げを大きく伸ばし、ついに2023年世界半導体企業売上高ランキングでトップに躍り出た。2023年世界半導体市場売上高は、昨年半ばには前年比2桁マイナス成長すると予想されていたが、最終的にマイナス8%で収まったのは、以下に説明するように、Nvidiaの2023年後半の驚異的な売り上げの伸びによるところが大きい。
Nvidia 独自の2024年会計年度第4四半期(2023年11月〜2024年1月)の売上高は前年同期比3.7倍の221億300万ドル、純利益もGAAPベースで同8.7倍増の122億8500万ドルで、ともに市場予想平均を上回る過去最高額を達成した。2024年度通期の売上高も、前年度比2.3倍増の609億ドルとなり、純利益も6.8倍でともに過去最高を更新した。同社は、2025年度第1四半期(2024年2月〜4月)の売上高見通しについて、第4四半期をさらに上回る240億ドルというガイダンスを発表している。
表1 Nvidiaの過去2年間の四半期ごとのビジネス分野別および総売上高の推移。データセンター向け売上額が2024会計年度第2四半期(2023年5〜7月)以降急増している点に注目。他の分野には目覚ましい伸びは見られない。 出典:Nvidia, 2024年 2月発表
Nvidiaの過去2年間の四半期ごとのビジネス分野別および総売上高の推移を表1に示す。2024年会計年度第2四半期(2023年5〜7月)からデータセンター向け売上額がうなぎのぼりに増加していることが読み取れる。Nvidiaにとって祖業だったゲーム向けビジネスは、今や総売り上げの10%余りにまで比率を落としているのに対してデータセンター向けは8割を超えるまでに急成長してきている。
ゲームのグラフィックスを描くGPUは、CPUのアクセラレータに最適であることが分かり、金融トレーディングやネットオークション、そして仮想通貨マイニングへと用途が広がり、さらには人工知能(AI)開発という新たな用途が出現した。幸運の連続で、今後も未知の分野でさらに新たな用途が出現するかもしれない。
同社のJensen Huang CEOは、「アクセラレーションコンピューティングと生成AIの需要は、企業、業界、国家を超えて世界中で急増している」と、2024年は年間を通じて需要が供給を上回り続けるとする見解を示し、今後さらなる供給拡大に努めていく姿勢を強調している。AI需要の高まりに伴うAI半導体需要も高まり続けており、その支配的な立場にあるといえる同社の半導体業界における独り勝ち状態は、ライバルメーカーが追いつくまでもうしばらく続きそうである。