ロームのSiCパワー半導体投資は5100億円!〜30〜50%のシェア獲得狙う〜
ロームのSiCパワー半導体にかける気力がますます充実し始めた。28年3月期までに何と5100億円を投資し、SiCパワー半導体の世界シェアを30〜50%握ると見られるのだ。この計画の裏には、福岡県筑後に立ち上げたSiC素材の新工場建設がモノを言ってくると見ているのである。
こう語るのは、ローム・アポロにあって取締役であり、筑後工場長の任にある徳永孔二氏である。徳永氏によれば、筑後工場は廃熱を有効活用した高効率の空調設備を備え、100%再生可能エネルギー化を実現しているという。とにもかくにも超グリーンの工場なのである。
さて、ロームの半導体売上額は2022年度に初めて5000億円台にのせてきた。正確には、5078億8200万円を達成したわけであるが、かつての民生用市場重視の構造からは大きく脱却しており、自動車向けが実に41.9%を占めており、産業機器向けは17.7%、民生機器向けは22.1%、コンピューター/ストレージが13.9%、通信が4.3%となっている。
売り先については、日本国内が56.9%を占めており、圧倒的に多い。これは日本の自動車企業が世界シェアの40%を抑えているというその強さを考えれば、十分にうなずけるところなのである。ちなみに、日本以外の比率を言えば、中国12.4%、米国12.2%、アジア10.8%、欧州7.7%となっているのだ。
「世界各国で、カーボンニュートラルに向けた電動化政策の前倒しが進んでいる。EV市場は急速に拡大していくだろう。この流れに後れをとるわけにはいかない。ただ、フルハイブリッドやプラグインハイブリッド、燃料電池車の動きにも注意する必要がある。当社はSiCパワー半導体を戦略商品にしながらも、窒化ガリウムや酸化ガリウムなどもカバーしており、いわばフルラインアップで臨んでいくのだ」。
力強くこう語るのは、ロームにあって代表取締役社長の松本功氏である。松本氏によれば、様々な提携契約が今後大きく貢献してくるという。パワートレインメーカーのドイツのVitesco Technologiesと協力関係を構築したほか、中国の新エネルギー車向け駆動分野の先進的企業であるLeadriveと車載インバータの開発に向け共同研究所も開設している。最近では、中国の吉利汽車と戦略提携を結び、正海集団とSiCパワーモジュールの合弁会社設立で合意した。
また、中国大手ティア1のUAESのSiCソリューションにおける優先サプライヤーに認定された。22年には米国新興EVメーカーのLucid Motorsの車載充電システムにSiC-MOSFETが採用されたほか、中国のパワーデバイスメーカーのBASiCと戦略提携した。まさに急ピッチでグローバリゼーションを進めているのである。
「先ごろマツダのEV戦略への参画も決めた。電動駆動ユニット向けインバータと、SiCパワーモジュールを共同開発するのだ。また、日立AstemoのEV用インバータにSiC-MOSFETとゲートドライバICが採用された」(松本社長)。
図1 ロームは結晶からパッケージまで一貫生産する 出典:ローム
ロームという会社のすさまじさは、シリコンは言うに及ばず、SiC (シリコンカーバイド)結晶など内製材料にこだわりを持ち、内製フォトマスクを使用し、内製金型・リードフレームを使い、最先端パッケージも自分で立ち上げてしまうことだ(図1)。
要するに、ほぼ完全に近い垂直統合型生産体制を確立することで、顧客への長期安定供給、品質保証を約束しているのだという。SiCパワーデバイスは、近い将来に1兆円市場を築くと推測する向きもあるが、ロームが世界シェア30〜50%を取れるかどうかについては、国内外の関心が集まっているのである。