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2nmのマスク製作期間を格段と短縮するNvidiaのcuLithoとSynopsysのOPC

2nmプロセスでは、EUVといえどもOPC(光学的近接効果修正)が必要になってくる。EUVの13.5nmという波長ではパターンをそのまま加工できなくなってきたからだ。2nmプロセスだと複雑すぎて試行錯誤的なアプローチはもはや使えない。計算機利用のリソグラフィの出番となる。NvidiaとTSMC、Synopsys、ASMLは、昨年エコシステムを構築したが(参考資料1)、TSMCの量産ラインに計算機リソを導入していることが明らかになった。

図1 cuLitho用のテストパターンチップ 出典:Nvidia

図1 cuLitho用のテストパターンチップ 出典:Nvidia


2nmプロセスは、単なるGAAトランジスタの導入だけではなく集積度が格段と上がることによって極めて複雑な設計になると同時に、最小の実寸法は11~12nmとEUVの波長よりも短くなるため、90nm時代から導入されたOPC補正がマスクごとに欠かせなくなる。各マスクに最適なパターンを計算するために、NvidiaのGPUと計算機ベースのリソグラフィ(Computational Lithography)向けのライブラリであるcuLithoを利用することになる。昨年はこのためにNvidiaとTSMC、Synopsys、ASMLが計算機リソのエコシステムを構築した。

TSMCのCEOであるC.C.Wei氏は、「TSMCのプロセス工程にGPUベースの計算システムを組み入れるためにNvidiaと協力してきたが、その性能が高くスループットが大きく向上し、マスク開発期間が短縮、消費電力も大幅に削減した」と語っている(参考資料2)。「NvidiaのcuLithoをTSMCの生産ラインに組み込み、半導体の微細化に重要なマスク設計に活用する」と言う。またOPCでは、光源の形にも依存するため、ASMLのEUVリソグラフィ装置の光源の強さや位相などのパターンも調整することになる。

NvidiaのcuLithoをTSMCのラインに導入し、まずテストした結果、曲線的なパターンを得る速度が45倍速くなり、縦と横の直線的なパターンの「マンハッタン」マスクでは60倍も速くなったという。

さらにマスク製作期間を加速させるため、NvidiaのcuLithoに実績のあるSynopsysのProteusと呼ぶOPCソフトを統合するため、Synopsysとも組んだ。最適パターンの計算時間を桁違いに短縮させることを狙っている。Proteusは、20年間実績のあるOPC補正ソフトであるが、cuLithoに組み込むことでGPUベースの計算機リソになり、精度や効率、マスク補正速度は大幅に向上するだけではなく、補正用のモデル構築も進み、補正したICパターンと補正前のパターンでの効果を分析することもできるようになり、チップ製造プロセスを一新するという。

Nvidiaはこの1年で、生成AIを適用してcuLithoの価値を高めるためにアルゴリズムも開発してきた。この結果、生成AIによって計算速度は倍増した。生成AI[を適用して光の回折を考慮することで反転マスクや反転ソリューションもほぼ完ぺきにできるようになるとしている。ここにさらにProteusのOPC補正を加えることで最終的にマスク作成時間は2桁速くなるという。

また、これまでのGPU計算ではH100製品を使ってきたが、将来はNvidiaのBlackwell GPU(参考資料3)を使うようだ。リソプロセスで今後も何かボトルネックが出てきたときに生成AIとcuLitho、Proteusで最適なマスク作成が可能になるため、2nm以降のプロセス開発に有力な武器になりそうだ。

参考資料
1. "TSMC and Synopsys Bring Breakthrough NVIDIA Computational Lithography Platform to Production", Nvidia
2. 「NvidiaがASML、TSMC、Synopsysと組み、計算機リソで2nmノードを突破へ」、セミコンポータル (2024/03/24)
3. 「Nvidia、1兆パラメータの生成AI向け新GPUとAIコンピュータを発表」、セミコンポータル (2024/03/22)

(2024/03/28)
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