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モバイルからサーバ/スパコンにも拡大するARM、ソフトバンクが後押し

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ソフトバンクがARMを買収することが決まり、その狙いが単なるIoTデバイスだけではないことがARM Tech Symposia 2016 Japanで明らかになった。ソフトバンクグループ代表取締役副社長の宮内謙氏とARMのExecutive VP兼Chief Commercial OfficerのRene Haas氏(図1左)、Systems and Software GroupのGMであるMonika Biddulph氏(図1右)の三つの基調講演によってはっきりした。

図1 ARMの立場から戦略を述べるCCOのHaas氏(左)とシステム&ソフトウエアグループ長のBiddulph氏(右)

図1 ARMの立場から戦略を述べるCCOのHaas氏(左)とシステム&ソフトウエアグループ長のBiddulph氏(右)


ARMは1000社ものパートナー企業と一緒にコラボするエコシステムを確立してきたが、宮内氏はソフトバンクもパートナー企業と一緒に共同開発してきていたと強調する。ARMのHaas氏もソフトバンクのパートナーシップドリブン戦略は変わらないと述べている。ARMはこれまでのパートナーシップベースのビジネスモデルは全く変わらないと強調した。キーパートナーを何度も訪問して変わらないことを伝えた、としている。

ソフトバンクはARM買収を明らかにした直後の2016年8月に、ベンチャーのPacket社に940万ドルを出資した。すでに取締役を派遣している。Packet社は2014年に起業したばかりのクラウドサービスの会社であり、仮想サーバではなく物理サーバ(注1)を所有することを売りにしているクラウドサービス業者だ。たいていのクラウド業者は仮想サーバで運営していることが多い。

この物理サーバに最新のARMv8アーキテクチャを用いたCPUを搭載している。ARMコアのアーキテクチャを採用したことで、サーバの消費電力は1/10に減少し、1台のラック当たり7300コアという超並列演算が可能になった。またラック容量は3倍になり、処理性能も上がったことになる。米国で11月末からサービスを開始し、日本でも12月16日にサービスを提供すると宮内氏は言う。

ARMv8アーキテクチャのCortex-R52コアは仮想化技術を使ったクラウドサーバにも使われる。特にリアルタイム性能の良いCortex-R52には、機能安全ASIL規格も満足しており産業用・クルマ用にも向いているという。リアルタイム性能を生かして高速にクラウドを切り替えることが可能になり、フレキシブルクラウドに向くとBiddulph氏は述べている。

ARMコアのサーバへの応用はこれだけではない。ARMコアは富士通もその命令セットアーキテクチャをスーパーコンピュータに拡張する研究をしており、次期スーパーコンピュータ「京」にはARMのコアが使われる可能性が高い。Biddulph氏によると、東北大学が開発した津波シミュレータ「TSUNAMI」を使って、「京」のユーザーである理化学研究所との共同研究から、ARMアーキテクチャの優位性を見つけたとしている。演算能力は50倍に、効率は15倍に上がるとしている。ここではARMv8-AにSVE (Scalable Vector Extensions) と呼ぶ拡張機能を備えたものだという。SVEは、ベクトル長を最大2048ビットまで拡張できる機能だとしている(図2)。


図2 SVEとはベクトル長を拡張する機能

図2 SVEとはベクトル長を拡張する機能


図2に書かれているように、SVEとは、ARMv8-AにAArch64拡張機能を取り付け、ベクトル長を最大2048ビットまで拡張できること、粒度の細かいデータの並列度をHPC(高性能コンピュータ、いわばスパコン)科学計算用に拡張できること、コンパイラのターゲットを改善しソフトウエア開発負担を軽減すること、である。オープンソースのコミュニティで運用をはじめ、ARMエコシステムを広げていく、としている。

ソフトバンクはIoTシステム全体を通信オペレータとしてだけではなく、AI(人工知能)や高性能なデータ解析、基幹ネットワークシステム、大規模なハイエンドコンピュータなどコンピューティングのすべてに渡ってARMコアを使っていこう(図3)、とARMを全面的にバックアップする。


図3 大規模(エクサスケール)なコンピューティングに向かうARM エクサ(exa)は10の18乗という単位

図3 大規模(エクサスケール)なコンピューティングに向かうARM エクサ(exa)は10の18乗という単位


当初、ソフトバンクがIoTの市場を狙うと言っていた時に、IoT端末だけが注目されていた。IoTシステムは、端末だけではない。ゲートウェイ、エッジコンピューティング、データサーバ、ストレージサーバ、AIコンピューティング、時にはスーパーコンピュータなどさまざまな演算能力を持つコンピュータが必要になる。クラウドでは従来、x86アーキテクチャのIAサーバが占めていた。今でもIAサーバは伸びている。しかし、最近ではARMコアやMIPSコアを使う動きが出ている。Applied Micro社はARMv8を採用したサーバを、国内のベンチャーPezyコンピューティングはMIPSを採用したスパコンをそれぞれ計画している(参考資料1)。

注1. ITの世界では、サーバの仮想化が進んでおり、仮想化しないサーバをベアメタル(物理サーバ)と呼んで仮想サーバと区別している。

参考資料
1. 64ビットのARM/MIPSコア新勢力がデータセンター/クラウド市場へ (2015/11/26)

(2016/12/08)

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