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一刻も早く日本はファウンドリを設立すべき

先週、ISSM(国際半導体生産技術シンポジウム)2010に出席し、半導体プロセスエンジニアと話をしているうちに、会社がファブライトという言い方をしていることに対して、モチベーション(やる気)を落としていることに気がついた。日本の半導体メーカーは軒並みファブライトを口にするが、何のためにファブライトへ移行するのか、理由が納得いかない。後ろ向きの理由しか聞かされない。

ISSM2010の講演に熱心に聞き入っている

図1 ISSM2010の講演に熱心に聞き入っている

今の各社のファブライトから見えてくるのは、プロセス工場を閉鎖、ないし縮小することが第一目的で、その先に何を成長のエンジンに持ってくるのか、さっぱり見えない。現状維持が目的としか見えない。世界が成長している中、現状維持=後退、である。まさにガラパゴス化してしまうのである。前に進むためには変化して成長するしかない。一体何を強化して、利益を上げ、健全な経営に直していくのか、日本の半導体メーカーからは見えてこない。

ファブライトという言葉を初めて聞いたのはテキサスインスツルメンツ社(TI)からだった。TIはアナログ半導体ではトップメーカーの一つだ。TIの持つDSPは純粋なデジタルというよりも、アナログの派生品の一つと見るべき製品。DSPは積和演算専用のマイクロプロセッサであり、解析的に解きにくい方程式などを級数展開して数値計算するのに威力を発揮する。こういった方程式はアナログ的な自然現象を表すのに使う訳だから、DSPはまさにアナログの世界とリンクする。TIは、アナログに力を入れるため、デジタルの標準品やDSPなどのためにプロセスを無理して持つことはない。一方のアナログ製品はアナログCMOS回路やBiCMOS、SiGeバイポーラ、高耐圧製品などプロセスに依存する要素は大きい。だからプロセス工場はしっかりと継続する。しかし、微細化はそれほど必要ない。だったら、微細化プロセスは捨ててもかまわない。成長のエンジンはあくまでもアナログだから。TIはアナログ向けにはプロセス工場を拡充ないし300mm化など攻めていくが、デジタルDSPには微細化を止める。これがTIのファブライトを進める説明である。誰もが納得いく。

日本の半導体メーカーは何を自らのコアコンピタンスとするのか。残念ながらその戦略はいまだに発表がない。かつて先端プロセスに価値があったとき、先端品は自社開発、遅れたプロセスは標準品として外部に委託する、と日本のメーカーは言っていた。この説明は明快で納得できる。しかし、今の半導体メーカーは、先端品を外へ出し、標準プロセスを内部で使うと言っている。これではなんで勝負するのか、全く見えない。

そもそも日本のコアコンピタンスを考えると、日本の半導体が得意だったのは製造プロセスではなかったか。先端プロセスの開発で差別化できる製品を作ってきたではないか。ISSMで発表していたエンジニアはみな優秀だ。優秀な人たちに仕事をさせないファブライト戦略は本当に正しいのか。経営者が記者会見で言うのは、もはや微細化に金をかけられないからファブライトで行く、ということに尽きる。にもかかわらず、なんで成長するのか、最も強いコアとする製品は何か、というメッセージが出てこない。

微細化に金をかけられないのなら、外国、国内の投資家からお金を集めることに経営者は集中して奔走すべきであろう。NECと日立の共同会社から始まったエルピーダはつぶれる寸前まで現状維持だけに汲々とした結果、そのまま売り上げは減少し赤字が膨らみ落ちぶれた。その後、坂本社長に新たに来てもらったが、両親会社とも資金は出せないという。だから坂本社長は国内外に渡って奔走し1800億円の資金を得てDRAMに投資し、復活を果たした。親会社がお金を貸してくれないのなら親会社から分かれて、外の資金をたっぷり注入し、親離れすべきである。コバレントマテリアルが東芝から独立したことも健全な経営を目指すという意味で評価できる。IPOで資金調達を外部に求めることで健全な経営をし、透明性も上げて行くことが望ましい。

「日本ファウンドリ」は、1社で始めてもよい。あるいはアブダビやグローバルファウンドリーズの日本工場でもよい。数社がまとまるのは責任逃れになりがちなのであまりお勧めできない。日本には優秀なプロセスエンジニアが多い。彼らを使い、成長できる戦略を立てればよい。ファウンドリがあるのは台湾だけではない。韓国にも、欧州にも米国にもファウンドリはある。しかし日本に、製造の得意な日本に、ファウンドリがない。極めて不自然な状態であり、これが問題なのである。


ファウンドリ事業に日本企業はいない

図2 ファウンドリ事業に日本企業はいない


製造が得意な日本がやるべきことは、ファウンドリ事業だろう。一刻も早くファウンドリを創業し、日本の顧客を手始めに海外の顧客を採りに行くことも視野に入れながら、ファウンドリ会社を設計すればかつてのDRAM時代を取り戻せる。資金調達を国内外から求め、いずれIPOに移していくことを考えながら日本の半導体企業を経営していく。今は、金がない、で止まっているから、前に進めないのである。中途半端なファブライトを止め、設計部隊をいっそのことファブレスに移行し、ファウンドリがさまざまな顧客からの製品の量産を引き受けるという産業構造を早く作るべきであろう。

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