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海外半導体企業7社が岸田首相に伝えた日本への前向きな投資内容とは?

去る5月18日、岸田文雄首相は、海外からの人材・資金の呼び込みや投資を促進するため、米国や欧州、韓国、台湾の半導体関連の主要企業7社のトップを首相官邸に呼び、意見交換会と称する会合を開催した。

各社からは日本への投資や日本での取り組みの意思表明があり、岸田首相は、参加企業による日本への投資に関する前向きな発信を歓迎し、対日直接投資の更なる拡大、そのための財政的支援(つまり巨額補助金)に取り組んでいく考えを述べたと伝えられている。しかし、会議は非公開であり、各社の発言内容は公開されていない。


グローバル半導体企業トップとの意見交換会 / 首相官邸

図1 グローバル半導体企業代表と岸田首相、西村経済産業相(写真中央)らとの集合写真
出典:首相官邸


そこで、著者は、会合に同席した経済産業省の西村大臣の記者会見コメント、一部企業のプレスリリース、一部メディアの報道、独自調査など様々な公式・非公式情報を基に、これら7社の日本への投資の意向や日本での活動を具体的にまとめてみた。


米Micron Technology  (出席者:Sanjay Mehrotra CEO)
同社広島工場に5000億円を投じ、2025年以降に日本初となるEUV露光技術を用いた1γ-nm DRAMの開発・製造を行うと公式に発表した(参考資料1)。日本政府は2000億円程度の補助金を支給する方向で調整が進んでいるという。同社広島工場には、1β-nm DRAM量産のためにすでに465億円の補助金が支給されている。これらの補助金に関しては、米国政府からの強い要請があったという。


台湾TSMC (出席者:Mark Liu 会長)
西村経済産業相によると、Liu会長は、岸田首相に「日本における投資拡大」の話をしたという。TSMCは、日本への投資に関して、現在、

・日本における第1工場となる熊本JASM(Japan Advanced Semiconductor Manufacturing)は、日本政府から補助金4760億円を得て建設中で、2024年末稼働予定である。

・日本における第2工場建設を具体的に検討している。決定は、日本政府の補助金と需要次第だとC.C. Wei社長が1月の決算発表会で明言していた。それ以前に同社幹部が第2工場建設を検討中であると述べていた。これを受けて、西村大臣は、すでに支援を表明している。ソニーも、熊本県合志市に熊本第2工場の建設を予定しており、その需要を満たすためJASM第2工場からCIS周辺チップが必要になる見込みである。

・日本のミッシングピースともいえる12nm未満プロセスのための第3工場を経産省が密かに誘致しているとのうわさが出回っている。


韓国Samsung Electronics (出席者:慶桂顕(キョン・ゲヒョン)Device Solutions部門CEO)
西村経産相によると、慶桂顕氏は「日本における半導体後工程の研究開発投資」に関して話したという。神奈川県横浜市内に300億円投じて新たに3D-ICパッケージング研究開発拠点を設置する模様である。そのため高い技術力を持つ日本の製造装置・素材メーカーと連携する交渉中である。日本政府に100億円程度の補助金を申請したとも伝えられている。Samsung自体は、「日本政府や関連企業と交渉中なのは事実だが、まだ正式に決まったことはない」と述べている。補助金支給待ちの状態である。


米Intel (出席者:Pat Gelsinger CEO)
西村経済産業相によると、Gelsinger氏は「日本の装置・素材企業との連携拡大」の話をしたことになっている。具体的には、環境にやさしい半導体製造用素材やサステイナブルな半導体製造や先端パッケージング工程の自動化などに関して日本企業との連携を強化するという。

日本への投資に関しては、以下のような事実が確認されている。

・Gelsinger氏は、「先端パッケージでは日本は長年リーダーであり、世界は日本の強みを生かせる状況になってきている。今は具体的な計画はないが(先端パッケージの研究開発拠点の日本設置について)議論は続けている」と述べている。複数の半導体製造装置メーカーから、「Intelから協力要請の打診があった」との情報を著者は得ているので、TSMCやSamsungに後れを取らぬように検討しているのは事実であろう。

・Intelは、2022年2月にイスラエルTower Semiconductorを54億ドルで買収契約を結んだが、その後1年以上たった今もまだ中国の規制当局の許可が下りていない。許可が下り次第、Towerの日本法人Tower Partners Semiconductor (TPSCo)の北陸3工場(元パナソニック半導体工場群)の所有権の51%がIntelのものとなる。買収が実現すれば、ファウンドリ事業の日本への進出の足掛かりとなる見込みである。

・理化学研究所(理研)とAI(人工知能)、ハイパフォーマンス・コンピューティング、量子コンピュータなどの次世代コンピューティング分野における共同研究を加速させる連携・協力に関する覚書を2023年5月18日に締結した。


米IBM (Dario Gil SVP兼研究部門ディレクタ)
・IBMは、Rapidusと戦略的パートナーシップを2022年12月13日に締結し、Rapidusに2nm半導体技術に関するライセンスを供与することを公表した。すでに米国ニューヨーク州アルバニーのIBM半導体研究開発センターにRapidus 技術者受け入れを開始している。Rapidusは、日本政府の研究委託費(いまのところ3300億円が決まっているが総額2兆円程度は予定されている)の中からIBMに巨額のライセンス料や技術指導料を支払うことになる。

・IBMは東京大学とシカゴ大学と量子コンピュータ実用化のために今後10年間にわたり協業することを決めた。さらに、IBMと東京大学は、127量子ビットのEagleプロセッサを搭載した量子コンピュータ「IBM Quantum System One with Eagleプロセッサ」を今年中に「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター(KBIC)」において兵頭で稼働させる。


ベルギーimec (Max Masoud Mirgoliワールドワイド戦略パートナーシップ担当EVP)
・先端半導体開発でRapidusと連携することを2022年12月6日に発表した。Rapidusは、「imecコアプログラム」に参画し、それに基づき、imecはRapidus技術者を受け入れることになっている。Rapidusは、EUV露光はじめ要素プロセス技術に関してimecから技術習得する。当然、Rapidusは、相当額のプログラム参加費をimecに継続的に支払うことになる。

・imecとIBMは先端半導体研究でライバル関係にあり、Rapidusがどのように両研究機関を使い分けるか公表されていない。一般的には、2nmプロセス・デバイス技術はIBMから、EUV露光の使い方に関してはimecから技術習得すると見られている。

・西村経産相が2023年5月1日にimec訪問時に「imecが日本研究拠点設置を検討中」であると告げられた。実際は、昨年12月にimec社長が訪日時にその旨語っていた。東京近郊で、ライフサイエンスや自動車への半導体の応用研究をする方向で検討が進んでいる(参考資料2)。


米Applied Materials (出席者:Prabu Rajaセミコンダクタグループプレジデント)
半導体製造装置メーカーの中から今回唯一招聘されたが、この分野の世界最大企業だからであろう。西村経産相によると、「IBMやimec同様にRapidusへの協力、人材育成協力」とのことだが、IBMやimecとは異なり具体的ではない。Rapidesの小池社長はかつてTrecenti Technologyの300mmファブ(現在、ルネサスエレクトロニクスひたちなか工場の一部)を立ち上げた際に、Applied Materialsに装置の枚葉処理化で支援を受けた経緯があり、今回のRapidus 千歳工場での量産立ち上げでも協力を取り付けていることを指していると思われる。

Raja氏は、メディアのインタビューに「今後数年で日本において800人の技術者を採用し、人員を現在の1.6倍に引き上げ、研究開発にも注力する」と語っている。


海外各社からの日本への投資とはいうものの、日本政府からの補助金などの出費も相当な巨額になることが予想されている。日の丸半導体復権に向けて着実に成果が上がることを期待するだけではなく、納税者は使い道を監視する必要があろう(注1)。


1. 米国では、傘下のNIST(国立標準技術研究所)に経営・財務・半導体の専門官を多数配置したCHIPS for America チームを設置し、半導体関連企業への補助金支給について厳格に審査し、黒字経営が見込める案件のみを選び、利益の一部を還元させる仕組みを取っている。米国では準備や審査に手間取り、まだ補助金支給は行われていない。米国では、納税者に対する説明責任が強く求められている。

参考資料
1. "Micron to Bring EUV Technology to Japan, Advancing Next-Generation Memory Manufacturing", Micron (2023/05/17)
2. 服部毅、「imecの日本への研究拠点進出は未だ検討中、ヘルスケアや車載応用の可能性も」、マイナビニュースTECH+ (2023/05/19)

なお、本稿は2023年5月25日時点の最新情報に基づいておりますが、事態は流動的であり、その後情勢が変化している場合があります。

国際技術ジャーナリスト 服部毅
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