中国恐るべし!半導体国際会議ISSCCでさらに躍進する中国勢
昨年5月に、「半導体デバイス・回路国際会議に見る日本の劣勢、半導体研究者の奮起を期待」と題して、VLSIシンポジウムやISSCCなど世界トップクラスの半導体国際会議で中国勢が躍進する一方、日本勢が凋落してきている傾向を紹介し、日本半導体復権のための提言を行った(参考資料1)。
半導体のオリンピックとも呼ばれるInternational Solid-State Circuits Conference:ISSCCが米国カリフォルニア州サンフランシスコで、2025年2月16〜21日に開催されているが(参考資料2)、中国勢の躍進がさらに顕著になったのに対して、日本勢の採択件数がさらに減少してしまい歯止めがかからなかった。
ISSCC 2025の論文投稿数は914件と、前回の「ISSCC 2024」から4.7%(41件)増加し過去最高となった。従来の応募件数は600件前後だったが、昨年、急に873件に増えたが、今年はさらに増加した(図1)。中国からの投稿が急増しているためである。採択数は前回から12件増え、246件だった。採択率は前回とほぼ同じ26.9%で、相変わらずの狭き門となっている。
図1 ISSCCの投稿論文数と採択論文数の推移 出典:ISSCC 2025 Tokyo Press Conference
採択数を地域(大陸)別に見ると、アジアが165件と最も多く、全体の3分の2以上を占めている。北米は57件、欧州は28件だった。アジアの採択数は前回から17件増加したのに対し、北米は7件、欧州は2件減少した。
国/地域別に見ると、前回、前々回に続いて中国(香港/マカオ含む)が大学を中心に今回さらに採択数を伸ばした。中国の採択数は92件と最多で、米国(55件)、韓国(44件)に大きく差をつけた。北京大学およびマカオ大学の採択件数はそれぞれ15件と驚異的である。清華大学は13件、韓国のKAIST(科学技術振興のための国策大学)は10件採択されている。
中国からの発表は、EUVリソグラフィが使用できないこともあり、先端ロジックや先端メモリの発表ではなく、回路設計の工夫で勝負できる電源回路やRF回路、エッジ端末の推論向けに有望なCompute-in-Memoryの発表が目立つ。いずれも今後伸びることが予想される半導体の最終用途を意識した発表である。
いまや大学からの発表が8割
いずれの地域でも採択論文は大学からのものが増加傾向にあり、ISSCC2025では、大学:企業:研究機関の比率は79:19:2だった。新たな半導体回路設計は以前のような企業ではなく、大学が中心になってきている。中国は投稿数が多いだけでなく、レベルも非常に高くなっており、採択率も年々向上している点が注目される(図2)。これは最近のVLSI SymposiumやIEDMにも共通した顕著な動向である。まさに、「中国恐るべし!」の状況が生まれている。
図2 国・地域別採択論文数の推移:中国からの発表がここ数年急増しているのに対して日本勢は長期減少傾向 出典:ISSCC 2025 Tokyo Press Conference
日本からの論文は減少傾向で今年はわずか8件
ISSCC 2025で、中国、米国、韓国、台湾が2桁台採択され続けているのに対し、残念ながら日本からの論文の採択数は長期的に減少傾向で、今年はわずか8件で、前回より3件減少してしまった。日本勢全部の発表件数が、中国や韓国の大学の発表件数に及ばない状態になってしまっている。
東京大学、東京科学大学(旧東京工業大学)、キオクシアは、それぞれ2件、ソニーセミコンダクタソリューションズと大阪大学の論文が1件ずつ採択された(図3)。昨年2件採択されたルネサスエレクトロニクスは、今年は消えてしまったが、昨年消えた東京大とソニーが今年は復活した。
図3 ISSCC2025で採択された日本勢の発表8件の技術分野 出典:ISSCC 2025 Tokyo Press Conference
日本半導体産業の長期凋落の反省として、「いかに作るか」から「何を作るか」をもっと重視しなければならぬと言われて久しいが、日本政府は相変わらずTSMC熊本工場やラピダス千歳工場など半導体製造(ファウンドリ)に巨額支援を続けてきた。やっと、重い腰を上げて半導体設計者育成にも投資を始めようとしているが、半導体の国内需要を喚起するためには、むしろシステム設計者、半導体応用技術者、半導体を搭載した最終製品の開発者などを育成・支援すべきだろう。
参考資料
1. 服部毅、「半導体デバイス・回路国際会議に見る日本の劣勢、半導体研究者の奮起を期待」、セミコンポータル、(2024/05/15)
2. 服部毅、「ISSCC 2025プレビュー:論文投稿数は914件で過去最高を更新」、マイナビニュースTECH+、(2025/02/07)