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栄枯盛衰は半導体産業の歴史にもつながる〜「日本半導体産業 激動の21年史」

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半導体産業はここに来て、100兆円の巨大市場を構築すべく、爆裂成長モードに入った。筆者は2021年の半導体生産を前年比20%増の60兆円と予測しているのであるが、この1〜6月を見る限り、予想よりははるかに上回り、前年比25%増くらいの勢いになっている。

設備投資もまた、筆者の予想である前年比30%増の15兆円弱よりはるかに高いペースで拡大しており、50%増近い驚異的な伸びを示しているのだ(編集室注1)。

重要なことは、半導体関連企業が超高い株価を支えていることであり、これは世界的な傾向になっている。また、軍事防衛を含めて世界の安全保障は半導体技術の進化および量産、そしてサプライチェーンの構築に左右されるようになってきた。さらに言えば、ロングレンジで3000兆円の巨大投資が実行されると言われるSDGs(Sustainable Development Goals:持続可能な開発目標)革命についても、半導体が重要な主役の一角を占めるようになってきた。

それはさておき、筆者が2年半以上の歳月を費やして執筆してきた「日本半導体産業 激動の21年史」(2000年〜2021年)がついに完成し、発刊の運びとなった。2000年4月に「日本半導体50年史〜時代を創った537人の証言」を世に出しており、これに続く半導体の新時代とも言うべき21年間の流れを詳細に綴ったものである。当然のことながら、ベースとなっているのは、筆者が所属する電子デバイス産業新聞の記者諸君の意欲的な取材記事なのである。これで日本および世界の半導体の74年間にわたる通史が完成したことになる。いわば「半導体の歴史」ということにおいてのオンリーワンともなるべきワークを完成させたのである。

思えばこの21年間の半導体産業は、まさに激動の中にあり、書き連ねているうちに頭がクラクラするほどであった。2000年はITバブルで沸き返り、世界の半導体は2000億ドルの大台に乗り、IT革命がサミットの中心議題になったのだ。2001年には同時多発テロが発生し、半導体は16年ぶりの大不況に突入する。2002年という年は大型投資を断行した台湾の存在感が、否が応にも増してくる。そして2003年のことであるが、垂直統合で戦う日本は、デジタル家電で圧勝するのである。松下(現在のパナソニック)は、DVD用システムLSIで世界を席捲し、ソニーはデジカメCCDで世界シェア70%を押さえ、ぶっちぎるのである。

ああ、「今は昔」というのは、まさにこのことだろう。今日において、デジタル家電の世界も中国、韓国を筆頭格とするアジアが圧倒的な強さを見せつけ、日本は劣勢に追いやられてしまったのだ。誰がこのことを予測できただろう。そしてまた、2000年の初め頃には世界の数%しかなかったファブレス企業は、06年段階で世界半導体出荷額の約20%を占めるに至っていた。シリコンファンドリは、2020年段階で世界生産額の4分の1近くにまで伸びてきており、垂直統合型のカルチャーからファブレス&ファンドリーの世界に移ることを予見させている。

2008年のリーマンショックは世界経済に大打撃を与えたが、とりわけニッポン半導体は立ち直れないほどの大きな傷を受けた。すなわち、翌2009年の半導体の日本市場は前年比28.8%減で一人負けとなってしまったのだ。さらに加えて、東日本大震災はニッポン半導体を直撃する。気がついてみれば、エルピーダメモリを失い、DRAMゼロになり、期待をかけたシステムLSIもクアルコム、ブロードコム、エヌビディアなど米国勢にまったく歯が立たない状態になってしまった。

日本の後退が明らかになっていく中で、青色LEDノーベル賞受賞の快挙がアナウンスされたが、世界半導体はインテルとサムスンが世界王座を争い、ここに中国勢が殴り込みをかけてきて、日本の存在感は薄れる一方になっていく。

その一方で、日本の装置産業は、大健闘を続けてきた。2020年の半導体製造装置トップランキング15の中で、実に日本企業は約半数の7社がランク入りするというほどの気炎を上げている。もちろん、半導体材料の方も相変わらず強く、フォトレジストに至っては世界シェア90%以上を握り、日韓貿易摩擦の要因ともなっていく。

「日本半導体産業 激動の21年史」は、上下巻合わせて登場する691社、403人が時代を創り、未来に向かう物語なのである。栄枯盛衰を描きながら、歴史の集積が将来を予見させるというコンセプトを強く掲げた。ちなみに、定価は上下巻合わせて1万120円となっており、全国書店、アマゾン、富士山マガジンなどで一斉発売の運びとなった。

そしてまた、この本の発刊を記念するセミナーが10月13日の13時半〜17時20分にオールオンラインで開催される。タイトルは「半導体を制するものが世界を制する時代が到来した!!」というものであり、筆者も冒頭の講演をさせていただく。

株式会社産業タイムズ社 代表取締役会長 泉谷 渉

編集室注
1. SEMIが2021年7月に発表した、2021年における世界半導体製造装置市場は、前年比34%増の953億ドル(約10兆円)となっている。

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