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AI半導体、24年に3〜4割成長の11兆円!〜SKのメモリなどにも恩恵

どこもかしこもAIの話題で持ちきりの昨今である。AIを活用したスマートファクトリに取り組む企業も増えており、やはり半導体がここでも主役になるのだ。

AI向け半導体は確かに驚異的な伸びを示している。生成AI向け半導体はGPU(グラフィックスプロセッサ)の技術を横展開したNvidiaの一人勝ちであるが、ここに来てはIntel、AMD、ルネサスなどの開発も加速している。そしてまた、MPUからデータ処理をオフロードするAIアクセラレータ市場は現状で210億ドル程度であるが、28年までには330億ドルまで伸長するとも、言われているのだ。GoogleやMeta、MicrosoftなどはAIアクセラレータ向けに独自の半導体を開発する方向性を固めた。

カスタムチップを活用することで、コストはかかるが運用効率の向上が図れ、ユーザサービスも充実すると考えているのである。こうしたAI向け半導体市場は24年に前年比3〜4割増となり、実に11兆円の規模になると予想され、まさに半導体の成長を牽引する新たな主役が出てきたと言ってよいだろう。

韓国のSK hynixはこのAIブームでウハウハしている1社である。同社のAI向け広帯域幅メモリ(HBM)は爆発的な量産が期待され、24年にはDRAMに占める比率が二桁になるという。AIチップ市場の80%を占めるエヌビディアに唯一「HBM3」を供給していることで、韓国SKの人気はにわかに高まっているのだ。

ちなみに、Samsung ElectronicsのHBMは消費電力などの問題で、NvidiaのAI用プロセッサに使用するためのテストにまだ合格していない。半導体メモリの王者であるSamsungの立ち遅れは予想もしなかったことである(編集注1)。

そしてまた、三菱電機の評判も良くなってきた。同社はデータセンター向けの半導体レーザーでは、世界シェアの50%を占める最大手であるが、AI人気を追い風にする製品開発に成功している。すなわち、AIサーバー向け応答速度を2倍に高めた半導体レーザーを高周波デバイス製作所で量産に持ち込んだのである。

ソニーセミコンダクタソリューションズもまたAI対応のイメージセンサの開発を急ピッチで進めている。現状はセンサがとらえた画像データは、すべてアプリケーションプロセッサに上がっているが、データセンターの処理は拡大するばかりなのだ。AIが処理しやすいように波長などの識別ができる画像センサを世に出す考えであり(編集注2)、いわば人間の眼にあたる画像センサに、脳の機能を付加することになり、この量産が始まれば画期的とはいえるだろう。

一方、AIを搭載したパソコン、いわゆるAI PCはいよいよ本格出荷の機運が高まってきた。年内にはパソコン出荷全体の22%になるとも予想されており、26年末には企業が購入するパソコンのすべてがAI PCに置き換わることも十分に考えられるのだ。現在の情報端末の主役であるスマホ、パソコンにもまたAI革命の波が訪れてきているのである。

こうしたことを反映し、AMDはAI対応ビジネス用ラップトップおよびデスクトップパソコン向け半導体を発表した。24年2QからHP・中国レノボで利用可能となっている。アナリストの一部に、AI対応のパソコン導入がPC市場の回復につながると言い出した由縁ではあるのだ。

産業タイムズ社 代表取締役会長 泉谷 渉


編集注
1. Samsungはかつて、高価で生産数量の少ないHBMよりも市場の大きなDDR-4やLPDDR-4などに注力しており、HBMがAI用のGPUとセットで使われるとは思っていなかったようだ。HBMはDRAMを積層してTSVで接続するが、量産はかなり難しくコストが高くつくと言われていた。
2. ソニーは可視光とIR光(SWIR; Short wavelength InfraRed )の両方をカバーする広波長帯域のセンサSenSWIRを産業向けに生産しており、センサからの画像を認識するためのAIプロセッサを実装する技術開発も進めているようだ。

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