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東京エレクトロン、業績好調で夏の賞与を30万円上積み

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半導体産業は直近ではメモリの下落による一時的な景気減速が懸念されるが、中長期的には成長産業であることには変わりはない。東京エレクトロンは夏の賞与を平均30万円上積みすると日経が報じた。半導体産業での人材確保は熾烈を極めている。これまで斜陽産業と喧伝されてきたことへの反動がようやく表れてきたからだ。

7月23日の日本経済新聞は、東京エレクトロンの上積みを加えた合計の賞与支給額は300万円を超える水準となると報じている。これは一般社員への報酬だが、管理職や経営陣などには中期業績に連動する株式報酬制度に基づき8月に株式を交付するとしている。半導体人材が不足している折に、給与や賞与が低ければ人材確保は難しい。東京エレクトロンは好調な業績に連動させて、賞与で一般社員に報いる形で対応した。毎月の給与は、不況になってもその人件費という固定費を削減しづらいため、簡単に上げるわけにはいかないが、賞与(ボーナス)であれば業績と連動させ、好調なら社員に報いることができる。不況なら減らせるからだ。

同様の仕組みはかつてのエルピーダメモリでも行われていた。当時のエルピーダは四半期ごとの業績を発表していたが、坂本幸雄社長はその時の営業利益率が15%以上なら一般社員に特別賞与を出し、20%ならさらに多くの特別賞与を出すという仕組みを作っていた。米国などの企業では上級管理職や経営陣のみストックオプションを与えているが、元々外資系企業に勤めていた坂本氏はその習慣に疑問を感じ、従業員ファーストに変えて営業利益率が15%だと一般社員に特別賞与を与え、20%を超えた時に経営陣にも与えるという仕組みを作った。

また、これまで大手半導体企業の給与は決して高くはなかった。総合電機の中の一部門として機能していた半導体部門は、いくら利益が出ようと半導体部門だけ特別賞与を与えることを総合電機の経営陣が許さなかったからだ。エルピーダは元々NECと日立製作所の合弁で出発したものの、坂本氏は両社の関係をできる限り断ち切り、新たなボーナス制度を給与システムに組み込んだ。坂本氏が初めてエルピーダに来た時に「毎年200億円以上の赤字続きなのに役員はいつもゴルフの話しかせず、出張する時はファーストクラスを使っていた」と語り、ほとんどの役員に両社に戻ってもらったという。元々エルピーダとして出発した時、両親会社からこれ以上投資はしないが利益を出してくれ、とDRAMビジネスではありえないことを言われていた。

東京エレクトロンの利益の出た時は社員に還元するという姿勢は、評価できる経営であろう。社員はもっと頑張って業績を上げようとするからだ。

半導体産業は海外企業の方が成長してきたため、海外企業の方が一般に給料は高い。TSMCが熊本に新工場を建設しているが、2023年春に入社する大学学部卒の初任給は28万円、修士修了で32万円だと6月7日の日経が報じており、熊本県の他の日本企業の平均初任給は20万円前後と低いため、人材確保できるかどうか、戦々恐々としているようだ。

半導体産業での人材の確保は米国でも同様だ。米国の半導体産業はファブレス企業が圧倒的に強い。しかし製造は弱いため、「インテルが大学と共同で半導体技術者の2週間短期育成プログラムに着手。大学単位の認定や、同社の採用面接の機会を提供する」と23日の日経は伝えている。

電子情報技術産業協会(JEITA)は、今後10年で3万5000人以上の半導体人材が必要になるとしているが、報酬や給与面での待遇に関しては何も触れられていない。

人材面では、例えばAnalog Devices社や旧Linear Technology社は、人材確保を優先するため、一時的な不況が来ても容易に首を切らない。リーマンショック時でさえ、一人も解雇しなかったと当時のLinear会長のBob Swanson氏は胸を張っていた。また、米国西海岸にあるLinearが東海岸で優秀な人材を見つけても、もし家族などの理由で西に移動したくない人がいれば、その東海岸の場所をデザインセンターにして雇用した。優秀な半導体人材を確保することは極めて難しく、獲得するためのコストもかかるため、こういったフレキシブルな対応が企業側に求められている。

(2022/07/25)

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