Infineon、今後のSD-V時代に備えてRISC-Vマイコンを推進
Infineon TechnologiesがこれからのSD-V(ソフトウエア定義のクルマ)時代を迎え、CPUコアとしてRISC-Vを採用することを明らかにした(図1)。RISC-Vコアは米カリフォルニア大学バークレイ校の教授らが開発した、オープンソースのCPUコアであり、誰でも利用できる。とはいえ、非常にシンプルな命令セットなので自分で開発する場合には必要な命令セットやパイプライン構造、マルチコア対応などを作り込む必要がある。なぜInfineonはRISC-Vに力を入れるのか。
図1 InfineonはクルマのSD-V時代にRISC-Vを推進 出典:Infineon Technologies
自動車向け半導体トップであり、マイコンからアナログ、パワー半導体まで一貫したシグナルチェーンをカバーする製品群を持つInfineonは、クルマのコンピュータがSD-Vで高度になるにつれ、ますますソフトウエアだけではなくコンピュータの知識を蓄えておく必要に迫られると考えた。このためこれまで持っているAurixやTraveo、PSoCなどのマイコン製品群に加え(図2)、RISC-Vも追加することで様々なマイコンシリーズに対応しようとしている。
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図2 現在のInfineonの持つマイコンシリーズ 出典:Infineon Technologies
現在、車載半導体分野と車載マイコン分野で売り上げがトップに立ったというInfineonは、その要因を顧客のソリューションのためのソフトウエア、開発ツール、設計サービスにおける強力なパートナーのエコシステムを作ったことだと分析している。自社のマイコン開発において、これらのエコシステムを作っていれば、それぞれのパートナーがInfineonの顧客のためにソフトウエア、ツール、設計サービスを担ってくれるため、Infineonはチップの設計開発や製造だけに集中できる。これがエコシステム最大のメリットとなる。このようにしてAurixとTraveoは大きく伸ばしたという。
InfineonはここにRISC-Vを追加し、自動車産業のオープンスタンダードにしようとしている。それはRISC-Vがここ数年で急速に成長してきたからだ。2022年の時点でRISC-Vコアを搭載した半導体製品の数量は累計で100億個に達した。さらに最近は、NvidiaのGPU基板に搭載しているマイコンの数量が2024年だけで10億個を超えたことをNvidiaは発表している(参考資料1)。NvidiaのGPUチップセットにはRISC-Vコアが10〜40コア搭載されているという。
SD-V時代に入ると、ドメインアーキテクチャにせよ、ゾーンアーキテクチャにせよ、必ずマルチコアになることがわかっている。両アーキテクチャとも仮想化技術で複数のECUをまとめることになるからだ。なによりも新しいE/Eアーキテクチャの要件に対応するために無駄のない技術としてRISC-Vが出発点になると考えている。またオープンスタンダードであるゆえにエコシステムを拡大していける。
バーチャルプロトタイプを活用
具体的にはどうやって行くか。まずは、自動車用のプロファイルを定義する。基本ISA(命令セットアーキテクチャ)に、絶対必要な命令、あればいい程度の命令などいろいろな命令を追加する訳だが、自動車向けのソフトウエアで識別可能な機能のスーパーセットを記述する。次に用途に特化したカスタマイズを行う。ここはマイコンのニーズに対するプロファイルを構成する。さらにコアプラットフォームを作るわけだが、System-IPの統合によりコンピュータソリューションを提供する。
さらに、RISC-Vの標準化を促進する共同プラットフォームを開発するためのQuintaurisのリファレンスデザインボードを用いて実装する。これによってRISC-Vの認証を得る。
その前にチップができてきてからソフトウエアを開発するのでは、Time-to-Marketが遅れてしまうため、Infineonではバーチャルプロトタイピングを行う。これはハードとソフトの同時開発の手法であり、論理設計のRTLができた段階で、ソフトウエア開発を始めるのだ。RTLができた段階ではすでに内部のCPUや周辺回路インターフェイス、メモリ構成などがわかっているため、そのソフトウエアベースの設計図を元にシミュレーションし必要なソフトウエアを開発する。
さらにソフトウエアベースのシリコンが完成するとそのVPをテストする。例えばフォールトインジェクションでは、ソフトウエアでわざとエラーを発生させ、脆弱部分をチェックする。
車載用のRISC-Vでは、CANやLIN、FlexRayなどのインターフェイスがある上に、ローレベルのドライバソフトウエアなど決まった機能がある。このため車載RISC-Vプロトタイプは、SynopsysのVDK(仮想開発キット)をベースにしたRISC-VコアVPと、Infineonのソフトウエアドライバなどで構成される(図3)。これをSDK(ソフトウエア開発キット)として提供する。

図3 Infineonの車載RISC-Vコアのバーチャルプロトタイピング 出典:Infineon Technologies
同社におけるRISC-Vコアの位置づけとして、今のところ、同社が開発してきたハイエンドのAurixシリーズやミッドレンジのTraveoシリーズ、そしてローエンドのpSoCシリーズなどをRISC-Vで置き換えようという考えはないようだ。いわゆるポートフォリオを広げていく、と想定している。
参考資料
1. "How NVIDIA Shipped One Billion RISC-V Cores In 2024", RISC-V International Blog, (2025/02/25)


