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「TSMC熊本第2工場は12/16nmか7nmあるいは...」-TSMC決算説明会

台TSMCは、去る1月18日に2023年第4四半期の決算説明会(台積公司法人説明会、図1)でCFO による同四半期の業績説明(参考資料1)に続いて、同社CEOの魏哲家(C.C. Wei)氏と同社会長の劉徳音(Mark Liu)氏は、機関投資家(世界的に有名な証券会社や投資銀行など)の多種多様な質問に即答した。

長時間に及ぶ会見のため、その様子はほとんど報道されていないが、TSMCの実像を知るためにとても興味深い内容が含まれているので、さわりの部分を紹介しよう。各質問と共に筆者のコメントも加えておく。


TSMC2023年第4四半期決算説明会スクリーンショット

図1 TSMC2023年第4四半期決算説明会 写真右からWendell Huang CFO(財務最高責任者)、Mark Liu 会長、C.C.Wei CEO(最高経営責任者) 出典:TSMC法人説明会ウェブ中継画面を筆者がスクリーンショット)


TSMCは2024年に20数%成長する!

Q:2024年のファウンドリ業界およびTSMCの見通しは?

A:2023年は世界の半導体業界にとって困難な年だったが、生成AI関連アプリケーションの台頭を目の当たりにした。 2024年はTSMCにとって健全な成長の年になると予想している。2024年通年では、メモリを除く半導体市場全体は前年比10%以上増加し、ファウンドリ業界の成長率は約20%と予想している。当社は将来のAI およびハイパフォーマンス コンピューティング(HPC)関連の成長機会を獲得できる立場にあるので、ファウンドリ業界の成長を上回る20数%の成長を確信している。

筆者コメント:TSMCにとってダントツの史上最高収益が期待される。単価の高い最先端デバイスは継続して独占できると判断しているのだろう。


2nm需要拡大に備えて台湾高雄に2nmファブ3棟目建設を検討

Q:2nmの開発および量産に向けた準備の状況は?

A:当社のN2技術開発及び量産準備は順調に進んでおり、デバイス性能と歩留まりは予定通りかそれ以上である。裏面電源レールを備えた N2は、2025年後半に顧客に提供され、2026年に生産される予定になっている。N2 とその派生製品は当社の技術的リーダーの地位をさらに確実にし、これによりAI 分野でさらに成長のチャンスをつかむ。

当社は、新竹と高雄の両方のサイエンスパークに2nmファブを建設中である。高雄では1棟目は2025年に稼働開始を予定、2棟目は間もなく着工する。2nmの需要増加に備えて3棟目の建設を検討している。

筆者コメント:2nmは今まで以上に需要があることを予想しているというか、ライバルを寄せ付けず市場を独占しようとしている。本記事では割愛したが、TSMCはAIチップにも注力するとも言っていた。AIに特化してTSMCと競争しないと言っている2nmファウンドリのラピダスの運命やいかに?


日本第2工場のプロセスは7nm あるいは12/16nmあるいは......

Q:熊本工場に続いて日本に第2工場や第3工場を建てると報道されているが本当か?

A:熊本工場については、2月24日に開所式を行う。そして予定通り年末までに量産を開始する。日本で 2番目のファブ建設を真剣に評価段階にあり、第2工場では、今のところは7nmまたは 16/12 nmのいずれかのプロセスを採用する予定である。TSMCの台湾高雄工場は、最初の計画では28 nmか 7nmプロセスを採用することにしていたが、後で2nmに変更されたことを思い出してほしい。日本に 2番目の工場を建てるとしたら、先ほど述べたのが今のところの計画ではあるが......(言葉を濁す)。

筆者コメント:歯切れの悪い最後の部分の発言を再現すると、So that is the shift to -----for the --- if there is a second fab in Japan, that is our current plan. And as far as the-------。
本当は何か言いたいことがあったが、かろうじて思いとどまったようだ。


米国アリゾナ州の2番目のファブ稼働は1年以上遅れ

Q:米国アリゾナ州の2番目の3nmファブの計画は?

A:2番目のファブは建設中である。しかし、そこでどのようなテクノロジーを採用するかはまだ議論している段階だ。米国政府がその工場にどれだけのインセンティブ(補助金などの特典)を提供できるかにかかっている。現在の計画では(1番目のファブ同様に従来の計画より遅れており) 27年か 28年稼働を予定している。

筆者コメント:一番目の4nmファブは、2024年から2025年に稼働を延期。2番目のファブは1〜2年遅れ。米国政府の補助金がいまだに支給されないことが工場稼働遅延の理由に挙げている。


TSMCのN3pはIntelの18Aと同等の性能!

Q:TSMCのライバルでもあり顧客でもあるIntelが自社開発の最新デバイスはTSMCの2nmデバイスよりコストが安いうえにPPA(パワー(消費電力)・パフォーマンス(電気的性能)・エリア(専有面積))で優位にあると言っているが、TSMCの見解は?

A:以前にも同様な質問を受けているが、その後、TSMCのN3PはIntelの18Aと同等(の性能)であることを再度確認した(図2参照)。TSMCにとって、最新の2nmテクノロジーが 2025年に量産開始されるが、3年間にわたり準備してきており、テクノロジーの成熟度において他社に比べて大きな利点である。Intelは当社の顧客でもあるのでこれ以上コメントすることは差し控える。

(Intelのような)IDMは社の製品に合わせてテクノロジーを最適化するが、ファウンドリとして当社は(複数の)顧客の製品に合わせてテクノロジーを最適化する。ここに大きな違いがある。


TSMC2023年第4四半期決算説明会スクリーンショット

図2 TSMC(左)およびIntelの微細化技術ロードマップ(出所:TSMC/Intel Japan)


筆者コメント:Intelは、TSMCの主要顧客だから、TSMCは同社の発言を正面からは批判しにくい。おそらくTSMCは、最先端プロセスについてはIntelもTSMCに製造委託してくると読んでいるのだろう。


常に正しい新技術選択の秘訣は顧客に役立つかどうか

Q:TSMCは、いままで常に正しい新技術選択をしてきたが何を基準に選択しているのか。

A:一言で言えば顧客に役立つかどうかで決めている。顧客には、最高のトランジスタ技術と最高の電力効率の高い技術を妥当なコストで提供する必要がある。大量生産においてはテクノロジーの成熟度が最も重要である。高 NA のEUV装置を例にとると、注意深く技術レベルを検討し、ツールの成熟度、ツールのコスト、そしてそのスケジュール、つまりそれをどのように達成するかを検討し、顧客にサービスを提供するために適切なタイミングで適切な決定を下す。

筆者コメント:先に紹介したように、TSMCの劉会長は「(Intelのような )IDMは社の製品に合わせてテクノロジーを最適化するが、ファウンドリとして当社は複数の顧客の製品に合わせてテクノロジーを最適化する。ここに大きな違いがある」と言っていたが、複数の先進的顧客と協議できることで、正しい技術選択ができるのだろう。


世の中の成熟プロセスは供給過剰だがTSMCは28nm特殊技術に注力

Q:成熟プロセスによるデバイスが世界規模で生産過剰になるのではないか?TSMCの成熟技術ノードに対する戦略は?

A:ご指摘のように、現在、成熟したノードに対して構築中の生産能力が大きすぎる可能性がある。したがって、過剰生産能力に対する懸念があるのは事実である。TSMCは、他社との差別化を図り、(汎用技術ではなく)専門技術(Specialty Technology)の成熟したノードの生産能力を増加させている。その収益性は心配ないレベルである。

将来的には、28nmが当社の組み込みメモリ アプリケーションのスイートスポットになると予測しており、28nmでの長期的需要は複数の特殊技術(Specialty Technology)によってサポートされると予想している。したがって、当社は長期的な市場需要をサポートするために、海外での28 nmの特殊技術での製造能力を拡大していく。

筆者コメント:28nmに関しては、すでに中国南京に車載専用工場があり、熊本も28nmの特殊技術(イメージセンサ及び車載関連)」工場であることを明らかにしているし、欧州工場に20nm特殊技術(車載)工場がある。


CoWoSの需要うなぎのぼりで来年さらに増産

Q:CoWoSの需要見通しは?

A:実際、CoWoSの需要は非常に強い。現在の状況では、個客をサポートするのに十分な生産能力を提供できず、その状況は今後も続く。 おそらく来年まで続くだろう。私たちは生産能力を増やすために非常に熱心に取り組んでいる。生産量を2倍に増やしたが、まだ十分ではない。そして、来年に向けてさらに増加し続けることにしている。

筆者コメント:生成AI向けチップの注文急増で、TSMCは自社工場だけでは需要を賄いきれず、一部はOSATに製造委託している。TSMCはAdvanced Backend Fabを台湾域内2か所に増設する計画がある。

参考資料
1. 服部毅、「TSMCの2023年通年売上高は前年比4.4%減の2兆6000億NTドル、2024年は過去最高更新を期待」、マイナビニュースTECH+ (2024/01/19)

Hattori Consulting International 代表・国際技術ジャーナリスト 服部毅
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