経営戦略だけではなく人事政策も脱日本・欧米流に大変身のルネサス
前回のブログで、「ルネサスは過去と決別し新たな門出」(参考資料1)と題して、ルネサスエレクトロニクスが、日本の「伝統的な半導体メーカー」から脱皮し、ハードとソフトが融合した新たなシリコンバレー流ビジネスモデルを構築しようとしているように見えると述べた。これは、あくまでのルネサスの技術面について議論したブログだったが、その後、人事面でも「伝統的日本企業」から脱皮しようとしていることが明らかになった。
ルネサスは、2023年12月期に連結純利益が前期比31%増で過去最高を更新し、19年ぶりの復配を決めた。そんな中、同社は毎年4月に実施する定期昇給を今年は半年延期するとともに人員削減(リストラ)も行い、浮いた費用は投資に回すという。岸田政権が賃上げを各社の経営陣に要請する中、最高益下での異例の人件費削減が従業員の反発を招いていると日本経済新聞電子版が伝えた(参考資料2)。同社の労働組合も会社の提案に同意したというから驚きだ。
しかし、同社は、日経記事が事実誤認や誤解を招く内容であり遺憾だとして「今般の当社の施策は、伝統的・日本的な施策からグローバルな施策への移行に伴うもの」であり、伝統的な日本企業の受動的なコスト削減策ではないと反論した(参考資料3)。さらに、3月26日に開催された同社の株主総会で、取締役代表執行役社長兼CEOの柴田英利氏は、画一的な日本独自の賃上げに苦言を呈し、同社をはじめグローバル企業にあっては、不適当な日本流の古い慣習は見直すと述べた。
人件費浮かせて買収の投資資金作り?
ルネサスは、柴田社長就任以来、買収を次々手掛けて、数千億円規模の倍数だけでも4件行っている(表1)。昨年末時点で、同社の負債は1兆円を超えているが今年に入ってからの新たな投資で負債はさらに膨らむのは必至だ。人件費削減せねばならぬほど資金繰りに窮しているのか、それとも社員の意識改革を狙った心理的戦術なのだろうか。
表1 ルネサスエレクトロニクスの大型買収一覧 出典:ルネサスプレスリリース
ルネサスの役員の7割は欧米人、社員の過半は外国人
現在、ルネサスの執行役員の7割は、買収した欧米企業の役員を中心に欧米人で占められており、同社はもはや伝統的日本企業ではない。欧米人役員の前職は、
・ルネサスが買収した英Dialog Semiconductor 3名、
・ルネサスが買収した米IDT 2名
・Intel 1名
・Texas Instruments 1 名
である(参考資料4)。
日本人従業員が多数リストラされた上に、欧米企業の買収を繰り返した結果、「社員の過半も外国人」(株主総会での柴田社長の発言)になってしまった。親会社だった日立、三菱、NECはともに申し合わせたように今まで長期保持していたルネサス株をすべて売却して縁が切れたから、欧米流経営はさらに加速するだろう。
ルネサスの人事担当役員はイギリス人
ルネサスの人事担当役員もいつの間にかイギリス人のジュリー・ポープ氏(図1)に代わっていた。
図1 ルネサス 人事担当役員のジュリー・ポープ氏
彼女は、KPMG(世界的コンサル企業)を手始めにIBM、アメリカンエクスプレス、Dialog Semiconductor をジョブホッピング(転職)しながら出世(地位向上や報酬増加)してきた典型的なキャリアウーマンである。2019年にルネサスがDialog買収に伴い、ルネサスの人事統括部長に就任し、2022年に執行役員チーフヒューマンリソースオフィサー(最高人事責任者)に昇進した(参考資料4)。
「日本の伝統的な定昇に頼るのはやめて、私を見習って転職しなさい」と言わんばかりなドライな人事政策で、ルネサスはいっきに欧米流企業に変貌を遂げようとしている。「Pay per Performance)(成果に応じた報酬)」を徹底させるというから、その方針に反する定期昇給は廃止の方向だろう。柴田ルネサス社長は、「何年か後には日本企業の発想が変わることを期待し、ルネサスが日本を誘導することに貢献したい」と株主総会で述べ、古い慣習を見直して国際競争力を高めるべきだと訴えた。
OECDの調べでは、先進国の中で四半世紀以上にわたり、給与が下落し続けているのは日本だけだ。ルネサスでは、果たして日本人社員の給与も欧米並みになるのだろうか。
参考資料
1. 服部毅、「ルネサスは過去と決別し新たな門出、Nvidiaは圧倒的一人勝ちで業界業績つり上げ」、セミコンポータル (2024/03/08)
2. 「最高益下の定期昇給延期、ルネサス社員から不満」、日本経済新聞、2024年3月13日付け (同電子版は3月11日午後11時掲載)
3. 「定期昇給延期と人員削減に関する一部報道について」、ルネサスエレクトロニクス プレスルーム (2024/03/12)
4. ルネサス執行役員の紹介