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AI・人工知能EXPO2020(秋)に出展した日系ベンチャー企業の発展を祈って

展示会やセミナーがオンラインでも行われるようになり、自宅に居ながらにして展示会を見学、あるいはセミナーに参加できる時代になった。一方、新しい分野のオンライン展示会に参加しても、個人的なことで恐縮だが、筆者にとってはどうしても昔馴染みのあった半導体関連企業のブースには目が行くが、馴染みのない新興ベンチャー企業のブースは通り過ぎがちである。

しかしそれでは、今後の技術動向を分析しAIやディープラーニング、IoT関連(DX関連)が大事だと折角導き出した(参考資料1)のに、その分野の動向はいつまで経っても把握できない。筆者にとって馴染みの薄いベンチャー企業が多いからである。そこでAI関連のオンライン展示会を一度徹底的に勉強してみようと思い立った。

調査方法

ここでは2020年10月28〜30日に開催されたリード エグジビジョン ジャパン主催のAI/ブロックチェイン/量子コンピューティングEXPO 2020(参考資料2)において、サイト内の第1回AI・人工知能EXPO(秋)を対象にする。そこのオンライン来場・商談サービスを利用して、登場する企業や研究機関の全56ブースを見学し、ブース内セミナーも聴講して得た知見と、ダウンロードした資料を基に、この業界を調べてみた。少なくても早く企業名ぐらいは覚えなければという意気込みでもあった。

先ずは企業名、創業時期、企業規模、業務内容をまとめようと考え、各ブースの企業情報を読んだが、必ずしも上記項目のすべてを明らかにしていない企業も多かった。特に創業時期や企業規模、資本金、社員数などのいずれかの不明が目立った。その場合、ここでは企業名からウェブを検索して、可能な限り当該社のホームページから情報を得て補完している。

しかし、翻ってスタートアップ企業では、現時点の企業規模がその企業の価値や将来を必ずしも暗示するとは考えられないので、果たしてそのような作業をしても意味があるのかという疑問もわく。しかも海外企業の日本代表部は資本金などを明示していない例がほとんどである。また、仮にそれが判明したとしても、日本で起業した生粋のベンチャー企業と外資系の窓口機能だけの会社を同じ土俵で比較検討できるかという疑念にも直面した。

また同じ日本企業であっても資本金はもとより、創業時期すらウェブ に公開していない組織もある。従業員数にしてもバラバラで、テレワークや在宅勤務者を従業員にカウントしている企業もある一方、わずかな人数の正社員のみ表示して、非常勤者やアルバイトに仕事を割り振り、集めた成果を顧客に還元している企業もある。更にまた大企業から分社化され多大な資本金と多数の従業員を抱えた企業もある。スタートアップ企業と大企業の分社とを同じ土俵で議論できるか、社員数や資本金が多いからと言って企業規模が盤石と言えるか、そもそも企業規模とは何かと、議論は果てしなくなる。

そこで先ずは問題を単純化して、業態を把握しようと考え、56機関の内、純粋に日本で起業された企業を絞りこみ、そのデータを整理してみることにした。そのためここでは人工知能学会や、大学の関連の4ブースから得た知見は省いている。また単純化するため海外に本部を置く企業の日本窓口13ブースはこの調査には含めていない。グローバル進展の著しいこの分野の調査としては、いささか偏っていないか、との誹りを受けることは覚悟しているが、この分野の業界を知るための手始めの調査とご寛容戴きたい。

その基準で56ブースから抽出すると39社になる。母数が少ない感もするが、先ずはこの39社はどのような業務を展開しようとして、いつ起業したのか、また判る限りで規模はどうなのかを調査した結果を順に記述する。

調査結果―業務内容分析

図1はAI人工知能EXPO2020に登場した企業が、どのような業務で市場に臨んでいるのかを示す円グラフである。ここでは5つのカテゴリーに分類してみた。参考資料2ではこの会場の出展企業を12個のキーワードで説明している。そこで筆者の各カテゴリーの説明文にそれを付記して、筆者の言葉足らずを補わせて頂こうと思う。以下カテゴリー説明文内の「」は、参考資料2で用いられているキーワードに対応する。


AI関連日系企業39社の業務内容分類

図1 第1回AI・人工知能EXPO2020(秋)に出展された日系企業39社の業務内容分析


・カテゴリーI(濃い青)は、顧客に合ったAIやディープラーニング、「機械学習」の開発や、それらの教育、支援業務などを主とする企業である。
・カテゴリーII(紅色)は、会話や会議、講義などを文字にして記録に残す業務や、文書を読み取りそれをデータとして活用する自然言語ソフトウエアの開発を行い、そしてその教育支援活動業務を行っている企業を集めた。「自然言語処理」、「音声認識」、「対話AI」を含む分野である。
・カテゴリーIII(緑色)は、ウェブサイトのホームページ構築支援を行う業務や、そのコンサルティング業務分野を主としている企業である。
・カテゴリーIV(紫色)は、プラットフォームを構築し、店内ネットや企業内ネットなどローカルネットを構築する業務とか、あるいは外部ネットとリンクを張り、ネットワーク構築を支援する業務、更にまたクラウド構築やそのコンサルティングをする業務であり、即ち一語で言えば「ビッグデータ」を活用する企業である。
・カテゴリーV(薄い青)は、ハード、例えばエッジデバイスや携帯端末などハードウエア開発、およびその支援業務であり、その中にはそれらのハードウエアに使用するソフトウエア開発業務も含めている。例えば「エッジAI」、「ロボット」、「チャットボット」、「RDA(Robotic Desktop Automation)」、「OCR」という分野になる。

ここでは特許マップを作る時の手法を参考にして、それぞれの企業の代表的な業務を1社一つのカテゴリーに絞ってまとめている。しかし現実は単独で複数のカテゴリーをカバーする仕事を業務にしている企業も多い。一つのカテゴリーに押し込めることに無理もあろうとも思うが、それも問題を単純化するための必要な手段であると割り切った。

その結果は図1のように、1986年から2020年の35年間では、日本のAI・人工知能企業は、カテゴリーIが33%で最も多く、次いでカテゴリーIVの28%が続き、その後、カテゴリーIIの18%、そしてカテゴリーIIIと垢それぞれ10%という順位であった。尚、カテゴリーIVの中の1社はその企業の一製品分野を入れている(参考資料3)。

但しこの結果は世界全般というものではなく、あくまでも今の日本の産業構造も反映したものと考えておく必要がある。というのは筆者による東大大学院における半導体微細加工技術の講義を受けた聴講生の構成でも、2014年と2019年では受講生総数ではほぼ同じなのに、日本人院生数対留学生院生数の比が6年間で全く逆転し、日本人院生数が激減するという経験もした(参考資料4)。また2019年には筆者の講義の直後に行われる自然言語の講義には、教室から溢れるほどの日本人聴講生が集まっているのを目の当たりにしたからである。若者の興味の対象は国の事情によって異なる。従って図1はあくまでも日本の場合であり、外国の場合や世界ベースでは別の結果が出ることも十分考えられる。

因みに図1で外資系企業を入れても円グラフにしてみると大差は生じない。これは日本市場に合った企業しか日本に参入していないからとも考えられる。しかしよく見ると、付表のようにカテゴリーVでは日系と外資系が50対50である。これも他のカテゴリーには見られない比率で、日本の製造業を注視している筆者として大変気がかりな点である。

起業数の年度別分析

図2は、ここで調査した企業がいつ日本国内で起業されたのか、その時期についてまとめたグラフである。図より直近5年間の国内AI関連企業の起業件数18件は、その前の5年間の3件、更にその前の5年間の6件と比較しても3〜6倍と格段に多くなっているのが判る。


AI関連日系企業の起業件数推移とその業務別分類

図2 第1回AI・人工知能EXPO2020(秋)に出展された日本企業39社の年代別起業件数推移 (カテゴリー分類は図1と同じ)


2020年11月4日、セミコンダクタポータル主催で谷奈穂子社長の司会の下に開催されたSPIフォーラム「国内で立ち上がる半導体ベンチャーたち」にて、講演者の同社編集長津田建二氏が「最近国内でベンチャー企業が立ち上がっている」という話をされた(参考資料5)。津田氏が強調されたこの動向は、図2で見てもわかるように、AI・人工知能分野の業界でも同じと言える。つまり図2で急速に立ち上がっている日系企業も、図3や付表で後述するように、ベンチャー企業が主だからである。津田氏ご講演の半導体ベンチャー企業分野と本稿のAI・人工知能分野は、厳密にはそのまま重なるものではない。しかしITやAI・人工知能分野の技術は半導体抜きでは考えられないので、両者は広い意味で同じ半導体事業分野と考えれば、起業動向が同じなのは頷ける。

本稿の図2では少々判別しがたくて恐縮だが、図1のカテゴリー別の起業数推移も図1と同じ色別で図2に示している。よく見るとおわかりだろうが、興味深いのはカテゴリーIが2016年頃から急速に増加している。カテゴリーIIやIVの自然言語を主とするソフト開発はこの35年間、定常的に起業されているので、それをベースに、最近はカテゴリーIのAIやディープラーニングに関して、特に顧客要望に合わせたカスタムメイドのシステム設計やソフト開発企業が増えてきている。即ちここにきて開発技術動向の潮の流れが少し変わってきていると感じられる。マーケットが一段と顧客対応に進化(深化)しているとも言えよう。

企業規模

それぞれの企業の規模は一般には資本金や従業員数、そして年商金額などで表される。しかしスタートアップ段階の企業にとって資本金や従業員数はそれほど意味があるわけではない。年商の伸び率で比較する方が良いとも思うが、ウェブ調査の現段階では限度がある。

そこであくまでも参考までにという条件で、図3として図1の企業の資本金をバブルで表示した図を掲げておこう。繰り返すがあくまでもこれは参考という意味で脳裏にお留め頂きたい。本来なら縦軸が資本金なので、バブルの大きさで従業員数、あるいは年商を表示して、企業規模を示したかった。しかし前述の事情で、データが集まらずはっきりした傾向を示す図にはならなかったので、やむを得ずここでのバブルは資本金の大きさにしてある。

大きな資本金の3組織を除いて、その他は押しなべて図3のように数百万円から、多くても数億円規模のベンチャー企業が多い。数億円なら大企業というご意見もあろうが、ここでは実態を示しただけに止めて置く。


資本金(億円)

図3 第1回AI・人工知能EXPO2020(秋)に出展された日本企業39社の起業年代と資本金分布


まとめ

2020年10月に開催されたリード エグジビジョン ジャパン社主催の第1回AI・人口知能EXPO2020(秋)出展企業のオンラインデータと、ウェブ検索に基づく資料による調査分析から、次の3点が明らかになった;

1. 日本でもAI、人工知能分野のベンチャー起業数が直近5年間で明らかに増加している。
2. 業務内容ではカテゴリーIのAI、ディープラーニング関連ソフト開発、それも顧客のカスタムメイドの開発を支援するベンチヤー企業数が33%で、次いでカテゴリーIVのプラットフォーム構築支援などが28%、自然言語関連開発支援が18%と続いている。
3. 業務内容別の年度ごとの起業件数推移を見ても、カテゴリーII、IVの自然言語を中心とした開発の流れをベースに、最近はAIやディープラーニングに関して顧客要望に合わせたカスタムメイドのシステム設計やソフト開発が増えている傾向にある。
4. 資本金などの企業規模は多種多岐にわたっているが、いくつかの大企業をバックにした組織以外はベンチャー企業が主である。

これで大ざっぱながらもAI・人工知能EXPO2020(秋)に名を連ねた39の日本のAI、IT企業を概略であるが把握できたと思う。各社の今後の順調なご発展と、将来の日本の技術力強化と国富に貢献されることを心より祈念したい。

謝辞
またいつもの通りセミコンポータル編集長の津田建二氏にご査読を願った。ニュース源が少なくなっている筆者の、独断と偏見を避ける転落防止柵の役を担って頂いており、いつも厚く感謝している。

技術コンサルタント 鴨志田 元孝

付表 第1回AI・人工知能EXPO2020(秋)に出展された日本企業39社


調査した企業名は本文中では個別には記さなかったが、表はカテゴリー別にまとめた具体的な企業名である。詳細は下記参考資料6を参照されたい。
合計すると日系39社、外資系13社、この他に東北大、人工知能学会、凸版印刷、野村総研の4ブース、合計56ブースであり、それが本文冒頭のブース数に該当する。本文解析には日系39社を用いている。この表には出展された外資系企業13社も含めた。但しカテゴリー別分類作業の結果としては意味を持つが、本文で述べたように、外資系企業の場合、指標や数値を把握できないことが多いので、他の分析には使っていない。

参考資料

1. 鴨志田元孝「2050年の技術予測―課題はやはりIoT、人工知能(AI)、深層学習関連か」、セミコンポータル (2020/06/02)
2. 詳しくは https://www.ai-expo-at.jp/ja-jp/Visit/3lp.html
3. カテゴリーIVの中に日立ソリューションズのInternet SerVice Hubを2018年として含めたが、日立ソリューションズがその年に起業したわけではない。その年代はその製品の発表時期を当てはめている
4. 鴨志田元孝「第13章東大大学院での講義」掲載のp.90の表、一般財団法人武田計測先端知財団編「武田計測先端知財団の活動記録」、丸善プラネット刊 (2020/12/20)
5. SPIフォーラム「国内で立ち上がる半導体ベンチャーたち」、セミコンポータル主催 (2020/11/04)
6. Googleにおいて「第1回AI・人工知能EXPO 出展企業」と入力するとhttps://www.ai-expo-at.jp/ja-jp.htmlが開く。そこのWhat’ Newにて2020年10月21日の会場案内図をクリックするとhttps://www.ai-expo-at.jp/content/dam/sitebuilder/rxjp/ai-expo-at/documents/ja/2020/AI_BC_QC20_at_MAP_J_1016_2.pdfが出ており、そこに出展企業名がブースごとに明記されている。

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