ルネサスがAltiumを8800億円で買収する理由
ルネサスエレクトロニクスは、米国のサンディエゴに本社を置くPCB(Printed Circuit Board)設計ツールベンダーであるAltium社を約91豪億ドル(約8879億円)で買収すると発表した。半導体メーカーであるルネサスはPCB設計ツールベンダーを買収して何をしようとしているのか。ルネサスCEOの柴田英利氏の発言とAltiumの製品ポートフォリオから読み解くことができる。
図1 ルネサスがAltiumを買収することを決定 ルネサスCEOの柴田英利氏(左)とAltium CEOのAram Mirkazemi氏(右) 出典:ルネサスエレクトロニクス
先端パッケージング技術は半導体SoCの高集積化に有効として、このところTSMCをはじめIntelやAMD、Nvidiaなどが新製品に導入してきている。さまざまな2Dや3Dの半導体チップやチップレットを基板上に搭載してSiP(システムインパッケージ)とするためには、それらを配置する前に3D-CADで形状をシミュレートし、さらに電力を加えることで実際の動作を模擬する熱や電力、ノイズなどのシミュレーションが欠かせない。半田バンプでチップ同士を付けてから不具合を見つけても後の祭りだからだ。特に3D-ICではシミュレーションが必須である(参考資料1)。
TSMCが先端パッケージング技術で3D Fablic Allianceを形成しているが、その中の一つ、3Dblox2.0と呼ぶモジュラー設計ツールのメンバーには、Synopsys、Cadence、Siemens EDA(旧Mentor Graphics)のEDA企業トップリーにシミュレーションベンダーのAnsysが加わっており(参考資料2)、電気系と機械系のCADメーカーが入り混じるようになってきている。
先端パッケージにおける基板での配線設計はPCB設計と極めてよく似ている。配線ルールのチェックや、設計上の禁止事項なども含めており、先端パッケージに基板設計にはPCB設計ツールが欠かせない。ルネサスがPCB設計ツールベンダーのAltiumとは2022年ごろからパートナーシップを結んでおり、23年6月にはルネサス社内の全てのPCB設計ツールをAltiumのクラウドベースのプラットフォーム「Altium 365」に統一している。
Altiumは、PCB設計ツールである「Altium Designer」に加え、クラウドプラットフォームの「Altium 365」、さらに部品検索プラットフォームもクラウド上に持っている。ルネサスとしては、彼らのクラウドプラットフォームを利用することによって、ルネサスのチップを搭載するリファレンスボードを作りやすくなる。さらに、半導体ユーザーとなる電子機器設計者に対して、これらのプラットフォームを利用して電子設計できるように支援したい、とルネサスCEOの柴田英利氏は語っている。
ルネサスはこれまで、さまざまな製品ポートフォリオを組み合わせた「ウィニングコンボ」戦略を採ってきた。柴田氏は、「これまで400件以上のウィニングコンボを獲得してきた。今後もさらに増やしていきたいが、そのためにソリューションの質を上げたい」と述べ、自社のリファレンス設計ボードの開発に利用するだけではなく、電子機器メーカーのエンジニアが開放しているオープンなクラウドプラットフォームを利用してボード設計しやすい支援ツールとなる。
整理すると、短期的には先端パッケージの基板配線設計やリファレンス設計にAltiumのツールを利用するが、中長期的にはクラウドベースのPCB設計ツールをオープンプラットフォームとして提供する。さらに将来は、電子機器設計者に、Altiumと共同開発する新しいクラウドベースのプラットフォームを作り提供したいと柴田氏は述べる。
Altiumは1985年にオーストラリアで創業、オーストラリアの株式取引所に上場しているため、株式はオーストラリアドルで取引をする。
柴田氏は、Altiumのブランドは今後も継続して使うつもりだと答え、この組織をルネサス内部に取り込まない、と述べている。電子機器ユーザーや先端パッケージメーカー、OSATなどが安心してボード設計や基板設計ができるようにすることが狙いだ。買収完了はオーストラリアや関係諸国の認可を経て今年後半を見込んでいる。
参考資料
1. 「2.5D/3D-ICや先端半導体には3Dシミュレーションが不可欠に」、セミコンポータル(2023/09/01)
2. 「TSMC、先端パッケージ技術エコシステム3DFabric Allianceの詳細を明らかに」、セミコンポータル (2023/10/31)