Semiconductor Portal

» セミコンポータルによる分析 » 週間ニュース分析

半導体ロジックの景気先行指標となるTSMCの業績が戻ってきた

1月18日、今や世界トップクラスの半導体メーカーに成長した台湾TSMCの決算発表があった。TSMCの売り上げは、ロジック系半導体の景気を占う指標の一つとしても使えるため、その中身を紹介する。2023年第4四半期の同社売上額がようやく戻ってきた。2023年第4四半期(10〜12月期)の売上額は前年同期比1.5%減の196.2億ドルとなった。ドル高・台湾元安の影響で台湾元ベースだと前年同期と全く同じ金額の6255.3億元である。

4Q23 Revenue by Technology / TSMC

図1 2023年第4四半期のTSMC売上額のプロセス別内訳 出典:TSMC


今期最大の特徴は、3nmプロセスノードが全売り上げの15%も占めるように大きく伸びたことだ(図1)。2023年第3四半期に3nm品の売り上げが立ち始めてから第4四半期には15%も占めるようになったことは、このプロセスの量産がしっかり固まったといえる。前期の3nm品は全売り上げの6%にすぎなかった。

今期には3nm品と5nm品の合計で全売上額の50%を占めている。また、7nm品が同17%、16nm品が8%となっており、16nm以下のプロセスノードが同社売り上げ全体の75%を占めており、TSMCの売り上げ構成は常に先端品で稼いでいる。つまり16nmプロセスから導入されたFinFET技術から始まった、エリアスケーリング(単位面積当たりの集積度を上げること:注1)がしっかり根付いたことを示している。それまでは、配線幅/間隔を単純に微細化するリニアスケーリングだった。

用途別では(図2)、データセンターやスーパーコンピュータなどのHPC(High Performance Computing)分野とスマートフォン用が最も大きく、両者合わせて売り上げ全体の86%を占めている。高集積なICを必要とする分野は、小さな箱の中に、30年前のスパコンに匹敵するほどの性能を持つSoC(システムオンチップ)を詰め込むスマホがこれまでリードしてきた。スマホでは機能をたくさん詰め込みながら動作時間を延ばすため、電池を大きくし、その分電子回路を小さくし、半導体SoCに機能をたくさん詰め込んでいる。


4Q23 Revenue by Platform / TSMC

図2 2023年第4四半期におけるTSMC売上額の用途別内訳 出典:TSMC


HPCでもSoCプロセッサを並列処理させるためマルチコアを設けCPUコアの数を増やと共に集積するメモリも増やして動作速度を上げる手法が使われている。SoCに数値演算に必要な積和演算器を多数並べていることからGPUやDSPを集積する傾向が強い。最近ではAI(機械学習)専用の回路も集積する傾向が出ている。このため集積度は上がる一方になっている。

今回のTSMCの業績で気になる応用分野は、カーエレクトロニクスである。車載向けプロセスの売り上げが今期も前期同様5%ある。今期の売上額は前期比で14%増であるため、自動車向けプロセスも14%成長していると見て良い。車載向けの半導体は、制御系は65nm以上の緩いルールだが、インフォテインメント系は16nm以下の先端エリアスケーリング技術を使う。

クルマは、ビデオ画像を駆使した自動運転や自動ブレーキなど安全性応用へと進行しつつある。このため近い将来はもっと先端エリアスケーリング技術がクルマにも求められるようになる。TSMCがクルマ用の売上比率を徐々に高めているのはこのためであり、Fab 23工場(日本の熊本県JASM)での16nm以下のプロセスが求められることもその一環である。TSMCは熊本だけではなく、ドイツのドレスデンにも同様な工場を作る狙いは、欧州も日本と同様クルマ産業が盛んだからだ。欧州でも同様のプロセスの工場を作ることになっている。

注釈
1. エリアスケーリングは、配線寸法をほとんど変えずに3次元化を活用して単位面積当たりのトランジスタ数、すなわち集積度を上げる技術である。FinFETのFinの数を減らしたり、配線を可能な限り短くしたりスルーホールを配線領域上に形成したりするため3次元配線を活用して面積当たりの集積度を上げている。学会などではエリアスケーリングをDTCO(Design Technology Co-Optimization)と呼んでいる。TSMCはデンシティスケーリングと呼び、TSMCのユーザーの一人はエリアスケーリングと呼んでいる。ここでは最もわかりやすい適切な呼び名としてエリアスケーリングを用いた。

(2024/01/22)
ご意見・ご感想