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なぜiPhone 3GSのキモであるアプリプロセッサを日本が取れなかったのか

最近、アップル社のiPhone 3GSを分解して見せる記事をよく見かけるが、アップルマークの付いたアプリケーションプロセッサがサムスン製であるという記事も見るようになった。アップル社は部品メーカーなどの情報については決して明らかにしていないが、ケースを分解し、さらにチップもモールドパッケージを発煙硝酸などで溶かして中身を暴く企業が明らかにしている。

第1世代のiPhone 3G。ARM11とPowerVR MBXを集積したアプリプロセッサ搭載(出典:TPSSセミナーにて筆者が撮影)

第1世代のiPhone 3G。ARM11とPowerVR MBXを集積したアプリプロセッサ搭載
出典:TPSSセミナーにて筆者が撮影


例えば、その一つによると、iPhone 3GSのアプリケーションプロセッサには、英ARM社のプロセッサコアCortex-A8が、グラフィックスコアには英イマジネーションテクノロジーズのPowerVR SGXシリーズが使われているようだ。

それだけではない。今年のCES(コンシューマエレクトロニクスショー)でiPhone3Gよりも性能で圧倒するといわれたPalm社のスマートフォンPreにもCortex-A8とPowerVR SGXが使われていた。最先端のスマートフォンはいずれも同じIPコアを使ったアプリケーションプロセッサを搭載しているのである。Preのアプリケーションプロセッサは米テキサスインスツルメンツ(TI)社のOMAP3430を使っている。

こういったニュースを見て、日本のメーカーの不甲斐なさにショックを受けた。SoCが得意なTIには負けても仕方がない面もあるが、なぜメモリーメーカーのサムスンに取られてしまったのか?ここに今の半導体メーカーの問題が潜んでいる。サムスンは世界2位の半導体メーカーといえどもDRAMとフラッシュというメモリーで稼いでいるメモリーメーカーにすぎない。SoCメーカーとしての存在感など全くなかった。SoCメーカーのメジャーはルネサステクノロジであり、NECエレクトロニクスである。にもかかわらずなぜサムスンにやられたのか?

性能と価格、消費電力、サポート体制、ソフトウェア開発体制などの面でARMをプロセッサコアに選び、携帯機器のグラフィックスコアにイマジネーションのPowerVR SGXを選ぶのはごく自然である。自社のプロセッサコアにこだわる必要もないし、スマートフォン用のグラフィックコアをあえて自社開発する必要もない。では設計力はサムスンの方が上だったのか?それは考えにくい。ルネサスやNECの方が上だろう。それでも結果的にiPhoneビジネスはサムスンがつかんでいる。

すなわち技術力がいくら高くても、それだけでは半導体ビジネスは成功しないということだ。iPhoneの仕様をつかみ理解し、即座に開発を決断し、できるだけ短い期間内に設計し製造する、という現代のモノづくりに日本のメーカーが対応できていない。ではどうすれば、日本メーカーは勝てるようになるのか?

まず、技術至上主義から決別すべきだろう。技術が上ではない。技術が上だと考えるからこの無様な状況を招いた。ユーザーの仕様を真っ先につかむこと、そのためにはマーケティングを充実させ、ユーザーすなわち電子機器エンジニアと話のできる人材を育成あるいはヘッドハンティングすること。エンジニアと話ができるとは、電子機器エンジニアの要求を100%理解し、納得できないことを徹底的に質問して仕様の奥の奥にある技術までも引き出し理解する、という意味である。このような人材は、デジタルもアナログもRFもわかり、相手から情報を引き出す能力のある人材だろう。シニアエンジニアでもよいし、優秀な元エンジニアなどだろう。ちなみにサムスンにはPh.D(博士号)を持つマーケティングの人材がゴロゴロいる。マーケティングの方が技術部門よりもむしろ上だという組織にしなければ、次の設計への着手が遅れてしまうだろう。

仕様が決まったら即設計に入る。ハードの設計が少し進み、ハードをシミュレーションできる状況になったら即ソフトの開発も進める。IPはできるだけ外部から購入し自社開発しない。とにかく開発スピードが最優先だ。RTLが完成しネットリスト、DGS-IIフォーマットでマスクを生成できると即、製造部門なりファウンドリなりにマスクセットを移転する。

迅速な開発力とユーザーの要求を理解できる能力があれば、ビジネスで勝てる。何1000億円も微細化に投資しても勝てない。投資すべきところを間違えると失敗する。世界の半導体メーカーを取材していると、自分の強い部分に投資し、弱いところは外部から買ったり重要な人材を逃がさない戦略をとっている。資金投入を適切に配分するための経営判断は半導体経営の重要な要素である。

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