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日本発ファウンドリのラピダス社、最初から2nmノードを目指す

日本でもようやく本格的なファウンドリ事業が始まる。2022年8月に設立されたラピダス(Rapidus)社が経済産業省の補助金700億円を受け、ファウンドリ事業に必要な2nmプロセスノードの研究開発を始める。その5年後に量産してTSMC並みの世界的なファウンドリに育てていく、というストーリーだ。資本構成も明らかになった。

図1 ラピダスの代表取締役社長に就任した小池享義氏 写真は2022年8月のFlash Forward Japanセミナーにて

図1 ラピダスの代表取締役社長に就任した小池享義氏 写真は2022年8月のFlash Forward Japanセミナーにて


この新規プロジェクトは評価する声と、否定する声をSNSなどで見かける。11月12日の日本経済新聞では、「日本の半導体は今度こそ復活できるか」という社説を流し、課題は多いものの期待している。筆者は日本でのファウンドリを12年前から主張し続けてきたが(参考資料1)、ようやく設立にこぎ着けたことで、新会社に期待する気持ちが強い。ただ、12年前にブログで述べた時でさえ、「もう遅い」といった声を聞いた。現在でも「もう遅い」という声がある。しかし、半導体ビジネスは成長産業であり、この先20年は成長が続くと見られている。今でさえ遅すぎることはない。

さて、ラピダス社の取締役会長には東京エレクトロンの社長・会長を務めた東哲郎氏、代表取締役社長には、前ウェスタンデジタルジャパンの代表取締役を務めていた小池享義氏が就任した。資本金は資本準備金を含み73億4600万円で、出資企業は、キオクシア、ソニーグループ、ソフトバンク、デンソー、トヨタ自動車、日本電気、日本電信電話がそれぞれ10億円、三菱UFJ銀行が3億円となっている。残りは社長と会長の経営株主と、創業個人12名が株主に加わる。

ここで不思議だったのは、設立が8月なのになぜ今発表したのか、ということだ。ファウンドリを本格的に設立しようとすると、73億円の資本金では企業を運営していけない。研究開発に200億円以上もするEUV装置が欠かせないからだ。そこで、経済産業省が主導という形で、「ポスト5G情報通信システム基盤強化研究開発事業」を成立させ、この内の「研究開発項目∪菽屡焼蛎寮渋さ蚕僂粒発」に関する実施者の公募を行い、採択審査委員会での審査を経て、ラピダス社の採択を決定した、という形を採った。公募するために会社が設立されていなければ採択されないからだ。この公募に採択されたことで700億円の国の補助金を得た。11月11日の経産省発のプレスリリースに今回のラピダス社についての説明がある(参考資料2)。

日本初であり発でもあるファウンドリが2nmプロセスノードからスタートするのは、「微細化したプロセスノードは儲かるからだ」と小池社長は述べている。これは、TSMCの収益構造から来ている。ここ最近のTSMCの売り上げは、5nm/7nmプロセスノードがほぼ半分を占めており、他の半導体、例えば車載向け半導体はせっせと作っているものの単価が安く、売上額全体の5%しかない(半導体不足の前は3%に留まっていた)。このため微細化プロセスのウェーハ価格は年々高くなっており、先端ノードは儲かると小池氏は判断した。

また、2nmの技術以降では、14/16nmプロセスノードから本格的に始まったFinFET技術をスキップしてGAA(Gate All Around)トランジスタに飛ぶ、というシナリオを描く。FinFETプロセスで苦労する必要が少ない。しかも日米連携の政治的な立場からは、2nmノードのGAAトランジスタを昨年発表したIBM(参考資料3)と手を組むという選択肢は有力だ。IBMはRISCアーキテクチャのPowerプロセッサを開発し続けている。x86系のCISCアーキテクチャよりも命令セットが少ない上に、Armほど後位互換性が複雑ではない。

小池氏が社長の有力候補であることは、11月7日のimecのITF(Imec Technology Forum)で小池氏のタイトルが前ウェスタンデジタルジャパン社長となっていたことからも想像できた。その時のWDジャパンのホームページにはまだ小池氏が社長となっていた。ITFでの小池氏のプレゼンは、ファウンドリビジネスに関するもので、ウェスタンデジタルが得意としていたNANDフラッシュの話が全くなかったことも奇妙に感じていた。案の定、ラピダスの研究開発フェーズでは、imecとも連携というシナリオが組み入れられている(参考資料2)。

2nmプロセスノードの研究開発拠点LSTC(Leading-edge Semiconductor Technology Center)は年内に設立される予定で、米国の国立研究機関であるNIST傘下のNSTCを始め海外の研究機関と協力して開発を進めていく。国内では物質・材料研究機構、理化学研究所、産業技術総合研究所、東北大学、東京大学、東京工業大学、高エネルギー加速器研究機構、そしてラピダスが参加機関となる。LSTCの理事長は東哲郎氏。

これまでも国内半導体メーカーの中にはファウンドリをビジネスとしているという企業もあったが、ラインが余っていたら使わせてあげるという殿様商売だったり、PDK(プロセス開発キット)を用意しておらず設計力のないユーザーは利用できなかったりなど、重要な顧客サポートが全くできていなかった。ファウンドリビジネスでは、顧客のサポート体制(マスク出力以前の論理設計、論理合成、ネットリスト、レイアウトまでのサポート)が確立していなければ注文は取れない。またFinFET時代から始まった、先端プロセス特有のエリアスケーリング(線幅の縮小はほとんどできないため面積縮小)によるレイアウト設計の見直し作業など(参考資料4)も欠かせないが、ラピダスはGAA時代も続くエリアスケーリングを進める必要がある。

参考資料
1. 津田建二、「一刻も早く日本はファウンドリを設立すべき」、セミコンポータル (2010/10/29)
2. 「次世代半導体の設計・製造基盤確立に向けた取り組みについて公表します」、経済産業省プレスリリース (2022/11/11)
3. 「IBM研究所が2nmプロセスで500億トランジスタのICチップを試作」、セミコンポータル (2021/05/07)
4. 「【動画】TSMC研究〜会員限定Free Webinar(9/28)」、セミコンポータル (2022/10/04)

(2022/11/14)
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