NvidiaがタブレットXoomに使えるほどの低消費電力化を達成させた技術とは?
欧州通信産業・半導体産業のプロフェッショナルがモトローラのタブレットXoomを絶賛したことはすでに伝えた(参考資料1)が、iPad2が3月2日に米国で発表されるとXoomと同レベルかそれ以上の仕様であることがわかった(参考資料2)。iPad2にはデュアルコアCPUが使われている点もサクサク動くという点も裏表にカメラ2台を載せている点も全く同じ。アップルはプロセッサA5の中身を明らかにしないが、Xoomに搭載されたNvidiaのプロセッサTegra2の消費電力削減技術を紹介する。
アプリケーションプロセッサTegra2は米Nvidiaが発表したヘテロジニアスなマルチコアプロセッサであり、その消費電力の削減技術はシステム的な観点からなされている。かつてNvidiaのグラフィクスチップはハイエンド指向で消費電力が数十Wあるいは100Wを超えるチップもあった。それだけにNvidiaといえば消費電力は大きいチップというイメージが定着していた。今回のプロセッサチップは携帯端末に載せられるほどの小さな消費電力になった。
図1 Nvidiaの設計したTegra 2マルチコアプロセッサ
Tegra 2には、合計8個のプロセッサコアが集積されており、ARMのCortex-A9を除き全て独立で動くヘテロジニアスなマルチコア構成となっている。ARMのCortex-A9のデュアルコアと、Nvidia が開発してきたグラフィックスチップGeForceをコアにシュリンクした回路、ビデオのエンコーダ、デコーダ、オーディオプロセッサ、画像処理プロセッサ、そしてARM7プロセッサコアからなる。
デュアルコアのCortex-A9は、並列処理するSMP(symmetric multi-processing)であり、ウェッブページへのロードを高速に行ったり、ユーザーインターフェースの応答を早めたり、複雑なウェブページのレンダリングをしたりするのに使っている。
Nvidiaが得意なグラフィックスコアGeForceは、2D/3Dの高効率なプロセッサで、ユーザーインターフェースや、写真、フォントなどグラフィックス的な要素を描画する。3D画像のQuake 3ゲームを解像度1024×600画素、60フレーム/秒の速度で描画する場合の消費電力は数百mWだとしている。これまでのNvidiaの常識を覆すような低い消費電力だ。別の例では、フルスクリーンのFlashアニメーションを描画する時の消費電力も150mWしかないという。このGPUは、ビデオを扱うのに専用のハードウエアを持ち、Flashに最適化したビデオやグラフィックスをデコードしているという。
ビデオプロセッサコアは、1080pまでのHD品質のビデオファイルやウェブからのストリーミングビデオをデコードするのに使う。ウェブ上のビデオの大半がFlashベースだとのことで、Flashで最も広く使われている圧縮方式であるH.264とSorenson、VP6-Eに対応している。Flash 専用のビデオプロセッサに近い位置付けだ。これによって1080pのHDを再生するのに400mW以下の消費電力ですむとしている。HDビデオのエンコーダコアは30フレーム/秒でカメラからの1080pのビデオストリームをエンコードし、テレビ会議やビデオライブを楽しめる。
オーディオプロセッサコアは数日間連続再生できるくらいの低い消費電力で設計した。MP3ファイルを128kbpsで再生するときの消費電力は30mW以下だとしている。画像処理プロセッサは、ビデオカメラからの入力を最大1200万画素、30フレーム/秒で画像を取り込み、自動ホワイトバランスや輪郭強調、ノイズ削減などの画像強調アルゴリズムをリアルタイムで処理できる能力を持つ。
こういった機能全体を制御し、パワーゲーティングとクロックゲーティングで消費電力を削減する役割を持つのがARM7コアである。グローバルにチップ全体のプロセッサコアを見て、今使われているコアのみの電源をオンにし、使われていないコアの電源をオフにする。
さらに消費電力を下げるためもっと細かく動作中の性能を見ながら周波数と電圧を制御するのがチップ全体のパワーマネージメントシステム(PMS)である。PMSは、ハードウエアで作るセンサーをチップ上に適材適所に散りばめ、動作状態や周波数、温度、入力リクエスト信号のパターンに関するデータを集めモニターする。例えばCortex-A9の負荷を常にモニターしておき、センサーからの情報を元に最適な周波数や電圧を動作するプロセッサに送り、無駄な電力を消費させないようにしている。ウェブページから何かをダウンロードしてそのコンテンツを読んでいるような場合にはCPUは動作していないためCPUの電源を完全にオフにする。ウェブがFlash動作を行っているときでさえもCortex-A9をオフにし、その作業をGPUやビデオプロセッサに振り分ける。
一方で、フィードフォワード制御システムも使い、素早く動作を始めたいときは一気に周波数と電圧を上げる訳だが、その時は高性能にせよという特別のリクエストが来たときのみである。このことによって、タブレットのユーザーはまるでサクサクと3Dのユーザーインターフェースなどを動かすことができる。
Nvidiaは、グラフィックスチップのコアコンピタンスを生かし、グラフィックスチップの性能をさらに上げると共に、ハイエンドからパソコンあるいは携帯などの組み込み系へと製品ポートフォリオを広げていく。ロードマップも作成している。
図2 Nvidiaのグラフィックスチップやコアのロードマップ
参考資料
1. タブレットに見る携帯機器報道の温度差〜MWC2011から (2011/02/21)
2. アップルがiPad2を発表、モトローラのXoomとそっくりとの声 (2011/03/07)