Intelが発表した事業立て直し計画を検証する
米Intelは、9月中旬に取締役会で3日間にわたり、業績立て直しのための今後の戦略について討議し、それを踏まえて、Pat Gelsinger CEOは、9月16日に従業員にあてに今後取り組む方針や戦略を詳細に説明するメールを送った(参考資料1)。同氏の方針に異を唱える取締役やEVPやSVPが8月までに依願辞任しており、Gelsinger氏の思い通りの計画が取締役会で承認されたようである。
産業界はこの計画では復興ままならないと見ている
Gelsinger CEOは、現在取り組んでいる再建計画がIntelを独立企業として存続させるのに十分だと依然考えているようだが産業界では、Gelsinger氏の発表した計画はどれも中途半端でこれでは復興はままならないと考える向きが多く、早速、米QualcommがIntel買収の申し出を行い、英ArmはIntel製品部門の買収を提案し(一部ではインテルが本業は売却しないと提案を拒否したとも伝えられてはいる)、米投資会社Apollo Global Managementは、Intelに対し、最大50億ドル(7200億円)規模の投資を提案している。今後、さらにさまざまなIntel救済案や買収案や業界再編案が出てくる可能性がある。
ここでは、Gelsinger氏が従業員に説明した再建計画のうち主要な項目を検証してみよう。
Gelsinger氏は、100億ドルの節約目標達成の一環として15000人のリストラを8月1日に発表していたが、自主的な早期退職や離職の募集により、年末までに約15,000人の人員削減という目標の半分以上を達成できそうだと9月16日に明らかにした。あと半分のリストラを断行するために難しい決断を下す必要があり、影響を受ける従業員には10月中旬に通知する予定だという。
Intelは、過去にも大規模のリストラを何度も行っており、そのたびに経費は節約できたが、プロセス・デバイス開発は人材不足で計画通りに進まない事態が起きてきた。Intelは、4nm CPU本体は低歩留まりながら自社生産し、CPUだけは今後も自社内で生産すると主張していたにもかかわらず3nmCPUと2nmCPUの製造はTSMCに任せてしまい、Intel18Aに資源を投入するとしている。今回のような大規模リストラでは、社運を賭けた先端デバイスの量産化が遅れてしまわないか懸念される。
AWSとの提携拡大
Gelsinger氏は、AWSとの戦略的提携を拡大し、AWS向けにIntel18AベースのカスタムAIファブリックチップを製造し、さらにIntel 18APやIntel14Aについても可能性を検討すると発表した。
Intelは、2021年に5N4Y(4年でIntel7、Intel5、Intel3、Intel20A、Intel18Aの5世代の技術ノードを大急ぎでこなして、2024年下半期に18A量産に持っていき、宿敵TSMCに追いつき追い越す方針)を発表した。もしも、計画通り(あるいは多少遅れて2025年上半期)に微細化を進めることができ、しかも、TSMC に先駆けて社内外の2nmクラスチップの受託生産が適正な価格で行えるようになれば、Intel復活は間違いない(参考資料2)。
図1 TSMCに追いつき追い越すためのIntelの挑戦的な「4年に5技術ノード」達成計画 出典:Intel マレーシアで2023年8月に開催されたTECH tour.MYというメディア向けイベントにて著者撮影
しかし、米Broadcomが、Intelに試作委託していたIntel18Aを使ったテストチップのテスト結果、歩留まりおよびデバイス性能の両面でBroadcomの合格基準を満たせず、量産は時期尚早とBroadcomが判断したとの情報が米国で流れており、この事態は、Intelの野心的な半導体製造事業の復活計画に影響を与える可能性が高いと米国半導体業界関係者はみている。ちなみに、Broadcomは、以前はIntel買収に関心があったが今はないと米国メディアの取材に答えている。
IntelがAWSとの提携を強調すればするほど、Intel Foundry が大口顧客をほとんど確保できていない状況が明らかになってしまう。今頃になって、IntelがソニーのPlayStation6用チップやマイクロソフトのAIチップの製造受託交渉に失敗し、大魚を逃した話がゾロゾロと表に出てきている。大口顧客を思うように捕まえられぬまま、先端プロセス開発に巨額投資をしなければならないとなると、年間1兆円を超えている赤字はさらに増加するだろう。
ファウンドリの社内分社化
Gelsinger氏の発表によれば、Intel Foundryをインテル内部の独立した子会社とするという。今年初めからすでにIntel FoundryとIntel製品の損益計算書と財務報告を分離している。Intel Foundryのリーダーシップチームに変更はなく、引き続きGelsinger氏に報告することになっている。また、子会社を統括する独立取締役を含む運営委員会も設置するとしている。
前CEOのBob Swan 氏は、長年にわたる製造部門の歩留まり低迷トラブルに対処するため、製造は他のファウンドリに委託しファブレスとなって設計に注力する案を検討していたが、後任のGelsinger氏はこの案を否定し、引き続きIDMでいる選択肢を選び、「IDM2.0」を発表した。今回も、一部の業界人は、Intelがファウンドリビジネスを完全に独立させるか売却してファブレスになるのではないかとみていた。売却先の第一候補としてGlobalFoundriesの名前が挙がっていた。しかし、現実は、かつての日本の電機メーカーの半導体子会社と同じようないわゆる子会社化とし、すべての権限をGelsinger CEOに集中させたままにした。
Gelsinger氏は、これで他社の資本参加がしやすくなったとか、Intel製品事業部と距離を置くことにより顧客が注文しやすくなったと主張するが、果たしてこの程度の独立性で顧客の納得が得られるか疑問である。
ドイツ工場の建設計画停止
Gesinger氏は、ドイツ(前工程)とポーランド(後工程)の工場建設開始を2年延期(正確には2年間停止)すると発表した。
ファウンドリライバルのTSMCはドイツ工場の起工式を8月に行い、独Infineon,独Robert Bosch,蘭NXP Semiconductorsの資本参加を得て2027年量産を目指す。したがって、Intelのドイツ工場建設が2年遅れることは、致命傷になりかねない。Intelは建設に300億ユーロ超を投資すると発表しており、ドイツ政府は約100億ユーロの国家補助を約束していた。リントナー財務相は、当面必要がなくなったIntelへの補助金を、連邦予算の赤字の穴埋めに振り向けるよう要求しており、ドイツの財政難を浮き彫りにしている。欧州の自動車産業は中国勢に押されて斜陽化し始めており、地元では、Intelドイツ工場は結局は中止となるのではないかとみる向きが多い。ポーランドの後工程工場も急ぐ必然性のない計画である。
マレーシアでのファブ建設の中断
Gelsinger氏は、「マレーシアでの工場の立ち上げは市場の状況と当社の既存能力の活用度の向上に合わせて行う」と、事実上の延期を発表した。
図2 マレーシアのペナン島で建設が進む先進2.5/3Dパッケージング工場 出典:2023年8月、著者撮影
著者自身がIntelのマレーシア工場を昨年8月に訪問した際、本土のクリム(スクライブとチップの電気的テスト)と対岸のペナン島(基板への実装と最終テスト)の2カ所で新たな先進バックエンドファブ建設を行っているのを確認した(参考資料2)。Inteは、現在、日本で「半導体後工程自動化・標準化協同組合」を率いて共同開発を始めたばかりだから、その成果を工場に展開するとなると、早急に新ファブ立ち上げを急がずとも良いだろう。
Altera株の一部売却
Gelsinger氏は、社内子会社化していたAlteraの株については一部を売却すると発表した。
Intelは、取締役会前に、すでに所有していたArmの株式を売却していた。米国の半導体業界では、Alteraの株式もすべて売却すると見ていた。売却先として、Marvell TechnologyやAMDの名前が挙がっていた。Altera株を一部だけ売却するというのはいかにも中途半端な判断に映る。Gelsinger氏の9月16日の発表では、Mobileyeについて何も触れていなかったが、9月19日になって改めて声明を発表し、88%の株式を保有している子会社Mobileyeの株式を売却する考えはない、とわざわざ発表し、市場のうわさを完全に否定した。
従業員あてのメールの最後で、Gelsinger CEOは、「(世間の)全ての眼が我々に向けられているが、一歩一歩戦い、これまで以上に良い結果を出す必要がある。それが批判を黙らせ、我々が達成できるとわかっている、結果を出す唯一の方法だからだ」と述べている。ぜひ世間の批判を黙らせるためにも、かつての輝きを取り戻すためにも、良い結果を出してほしいものである。
なお、本記事は2024年9月末時点の最新情報に基づいているが事態は流動的であり、その後変化する可能性がある。
参考資料
1. “Pat Gelsinger on Foundry Momentum, Progress on Plan”, Intel , (2024/09/16)
なお、Gelsinger氏による発表の本稿著者による和訳要約記事は以下に掲載
https://news.mynavi.jp/techplus/article/20240918-3027173/
2. 服部毅、「次世代PC用CPUを製造するIntel最大の後工程工場を見てきた!」、セミコンポータル、(2023/09/12)