台湾、日本どこで作っても差は5%のみ、エルピーダが低コスト技術を証明
日本の弱点である、低コスト技術について、ようやく本気で取り組むところが出てきた。エルピーダメモリが台湾レックスチップ社工場での低コストプロセスをそのまま広島工場に持ってきたら、コスト差は5%しかなくなった、と坂本幸雄社長は語った。これまで日本は低コスト技術をバカにしてきた。これが突破口になればよいが。
最近執筆した、「知らなきゃヤバイ! 半導体、この成長産業を手放すな」(日刊工業新聞社刊)の中で、日本半導体の敗因の一つは低コスト技術をバカにしてきたことを採り上げた。海外の半導体メーカーは低コスト技術を設計段階から採り入れてきた。だから競争力があり、日本製よりもより良いものを売っている。かつての日本が品質の高さを評して、品質を設計段階から作り込んできた、と表現したことと同じである。米国のメーカーが日本と同じように品質を作り込むことで日本に追いつき、追い越して行ったが、日本は低コスト技術を作り込むことをしていないようだ。
ようやく最近、エルピーダメモリが低コスト技術開発を実践した。7月末の決算発表会で坂本幸雄社長は、台湾の低コスト技術を広島工場が見習ったことで、台湾と日本のコスト差が5%まで縮まった、と表現した(関連記事1)。なぜ、今低コスト技術が採り入れられるようになったか。それまでの広島工場の責任者は台湾のレックスチップ社の製造工程をマネることを潔しとしなかった。台湾の低コスト技術を決して採り入れようとはしなかった。しかし、最近になって新たに就任した工場長は台湾の低コスト技術を積極的に採り入れたから、5%差を実現できた、と坂本社長は述べた。この差こそが本来の日本と台湾の差である。5%の差が世界との競争力の差となる。
この差こそ、政府がグローバルな競争基準を採用して日本企業の競争力を付けさせるべき仕組みであろう。しかし最近、政府が悪いから、政府が税金の仕組みを海外勢と同じにしてくれないから日本は競争力がない、という声を聞く。だが、その競争力の差は5%だろうか。もっと差が開いているのなら、政府のせいではなく企業自身の低コスト技術が追い付いていないことが原因である。なんでも政府のせいにすることは却って自らの競争力を失う。
低コスト技術は立派な技術力である。微細化技術や高精度の技術だけが技術力ではない。低コスト技術は低価格にするための技術では決してない。コストを減らし、利益を売り上げの30%〜40%確保する低コスト技術こそ、競争力を付ける重要な技術である。今はまさにミッションクリティカルな技術と言っても言い過ぎではない。
製造プロセスのどこを省略してマスク数を減らしながらどう性能や歩留まりを確保するか、パターンレイアウトを美しい幾何学として扱い数1000万以上のトランジスタを最も効率よく詰み込むようにデザインを工夫する、トランジスタのパターンをできるだけ同じ向きに同じ長さで配列し、波長よりも短いパターン幅を加工できるようにデザインするか、安い後工程のプロセスを選べるように電極パッドのデザインを合わせるなど、知恵を設計段階から盛り込まなければ低コストの半導体チップは作れない。設計ツールでも、歩留まりを左右しかねないクリティカルなパターンをいかに減らし歩留まりを上げるようにできるか、を考慮されたものを使う。量産に流してからコストを少しずつ切り詰める方式ではもはや、コストダウンは追い付かないのである。
低コスト技術をこれまでバカにしてきたからこそ、日本は負け続けた。低コスト技術を設計段階から製造工程に作り込むという海外の製造技術こそ、日本が見習うべき技術であり、その技術に追い付き追い越せば再び競争力を持ち、再び海外勢に勝てることになる。
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1)エルピーダ、過去最高の売り上げを達成、営業利益率は25%に (2010/7/30)