中国での生産を巡る日米vs欧州の思惑
今日の英文ニュースに面白い記事があった。ドイツのDRAMメーカー、Qimonda(キモンダ)社がSMICと提携、80nmのトレンチプロセスをSMICへ移管し、300mmラインでDRAMを生産するという。さらに将来、75nmプロセスのオプションも含まれると述べている。
中国では最先端の半導体プロセスでチップを生産できない。国際的な安全保障の枠組みの中で、最先端の兵器はいうまでもなく、ハイテク機器の輸出を制限するワッセナール(Wassenaar)条約という制限があるためだ。輸出を制限されている国のひとつが中国で、最先端の半導体プロセス装置も制限品目の一つになっている。
ワッセナール条約の締結国には日本とアメリカだけではなく、ドイツやオランダ、フランス、ロシアなど40カ国が含まれる。東西冷戦が終わり、共産圏への武器輸出を禁じたココムに代わる国際条約であり、その狙いはイラン、イラク、中国などへの武器やハイテク装置・部品の輸出を制限することにある。
このため現在、最先端の65nm装置はまだ中国へは輸出できない。今回、QimondaとSMICとの間で交わされた提携の中の75nmプロセスオプションに含まれる「将来」という意味は、少なくとも何年後ではなく何ヵ月後である可能性もある。
というのは、かつてSMICを取材したとき日米の半導体製造装置よりも欧州の装置を優先したいと言っていたからである。欧州はワッセナール条約への遵守が日米よりも緩い。半導体製造装置が武器に転用されることは考えられないことではないが、可能性は少ない、と欧州メーカーは考えているフシがある。少なくとも日本は米国と歩調を合わせてしっかりと遵守している。
実は今だから言ってもいいだろうと思うが、1995〜96年ごろNECが北京に中国政府と合弁の半導体工場を設立、稼動させていたときのことだ。首鋼NECと米Motorola社の両方の工場を見学したが、Motorola社が1ミクロンプロセスなのに、首鋼NECは日本と同じ0.8ミクロンのプロセスを稼動させていた。Motorola側はワッセナール条約の制限に対して不満を言い、このままではまた日本に負けてしまうから米国政府は何とかしろ、とワシントンにまで圧力をかけていた。なぜ、日本の首鋼NECが0.8ミクロンプロセス装置を導入したのかわからないが、この後は日本の半導体メーカーも装置メーカーも米国とぴたりと歩調を揃えるようになった。
SMICを取材したのはその後の2001年ごろである。日本も米国もワッセナール条約で最先端装置を輸出してくれないから、欧州ルートで入手するよ、とSMICはこっそり言っていた。このことから類推できるのは、今回のQimondaの将来に向けた75nmプロセスオプションが比較的早期に実現するのではないか、ということである。かつてのMotorolaと首鋼NECのように、日米がワッセナール条約のしばりにこだわると、欧州に油揚げをさらわれる可能性もある。