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キオクシアへの資本参加を陣頭指揮したSK Telecom社長がSK Hynixトップ兼務に

SamsungやSK グループなど財閥系企業にとって毎年12月はグループ会社の社長や役員の人事発表、即就任(あるいは即辞任)の季節であるが、2020年12月に韓国半導体関係者の間で最も話題になった人事発表があった。

韓国第3位の財閥であるSKグループの中核企業で韓国最大の通信キャリアSK Telecomの朴正浩(Park Jung-Ho)社長が同社の副会長(創業者一族の崔泰源(Choi Tae-Won)氏を会長に抱えるSKグループにとっては事実上最高の地位)に昇格するとともに、新たにSK Hynix副会長を兼任することとなる。

キオクシアのIPOに際しても朴正浩氏がキオクシア株取得に向け陣頭指揮か

同氏は、SK グループ全体を率いる崔泰源会長の最側近として元Hyundai Electronics(現代電子)だったHynix (のちにSK Hynixと改名)の買収、東芝メモリ(のちにキオクシア)への資本参加、最近はIntelのNANDフラッシュメモリ事業買収などの半導体関連の大型M&Aを崔会長の意向をくんで陣頭指揮した人物として知られ、SK グループ内でICT技術と半導体技術の両面で最高の専門家とみられている。今後、キオクシアの東京証券取引所への新規上場(IPO)に際しても同社の株式取得に向けて陣頭指揮するものとみられる。

SH Hynixのキオクシア株式取得は、今のところ、米日韓企業コンソーシアム(ベインキャピタルグループ)が買収時点での東芝側との契約では、14.96%に限定されているが(編集注1)、この契約は経済産業省の意向もあり、契約時点から10年間は絶対に変更できないという見方が有力だが、法律上は関係者が合意すれば不可能ということではない。

英国に本拠を置く市場動向調査会社OMDIAの半導体担当ディレクタの南川明氏は、去る12月のセミコンジャパンで開催されたSEMI Market Forum 2020で「SK HynixのIntel NAND事業買収で、売上高はキオクシアに並ぶが、キオクシアはこれを脅威として抵抗するのではなく、一緒にNAND業界の再構築に取り組むべきである」と述べている。つまり、キオクシアはSK Hynixと組んでいつまでたっても追いつけないでいるトップのSamsungに対抗すべきということだろう。

東芝メモリ買収に向け交渉の先頭に立ったのはSK HynixではなくSK Telecom

SKグループは、2011年に経営悪化で債権銀行団の管理下にあったHynix を買収するまでは、半導体産業とはほとんど無縁のグループだった。その後、2017年には、LGグループのシリコンウェハメーカーLG Siltronを買収し、18年には東芝メモリの買収に参加した。

当時の新聞によると、SKグループの崔会長はSK Telecomの朴社長を伴って東京に乗り込み東芝買収の交渉に当たったと報じられている。当時のメディアインタビューで、朴社長は「半導体事業でサムスン電子に対抗するためには東芝メモリの買収が必要だ」とし、SK Hynixと東芝のメモリーで連合をつくり巻きかえす考えを示していた。なぜSK HynixではなくSK Telecomのトップがこのような発言をするのか不思議に思われたかもしれないが、実はSK Hynix はSK Telecom傘下の企業なのである。朴社長は上述の通り崔SKグループ会長の最側近の参謀である。

SKグループは、2019年には米DuPontからSiCウェーハ事業を買収し、2020年にはIntelのNANDフラッシュメモリ事業を買収するなど, Samsungを意識した半導体事業の規模拡大のためのM&Aを相次いで行っている。グループ内の素材・化学メーカー各社も半導体用素材(エッチング用特殊ガス、フッ化水素、レジストなど)の国産化を積極的に進め、グループ内に半導体エコシステムの構築を図ろうとしている。SKグループとしてキオク
シアに可能な限り最大限の持ち分で資本参加することは重要である。

SK TelecomはSK Hynixと協業し非メモリビジネス強化へ

昨秋、SK TelecomはAIチップを自主開発し半導体市場に参入するとともに、今後、グループ内でも積極的にAIチップを活用していく模様である(参考資料1)。 SK Telecomは、今後、半導体チップ開発に関して、Intel出身の李锡熙(Lee Seok Hee)氏が社長を務めるSK Hynixの経営にも直接参画し、両社の連携はより密接になるものとみられる。 SK Telecom は、半導体ファブレスになったわけである。韓国政府は、自国を「半導体メモリ強国」から非メモリ(ロジックやCISやファウンドリ事業など)も世界一の「総合半導体強国」に移行させる方針を打ち出して諸政策を発表しているが、SK TelecomのAIチップ開発は政府方針に沿った「変身」である。

SK Telecomの主要事業は、日本で言えばNTTドコモのように移動体通信事業者として携帯通信事業をはじめとした電気通信分野の事業であるが、人工知能やセキュリティなどほかの成長事業やそのための半導体開発にも進出しており、「通信キャリアのような社名はもはやふさわしくないので、未来志向の社名に変更せよ」と崔会長から指示が出ており、すでに新社名案も提示されている。SKグループの総力を挙げた半導体エコシステム構築に注目が集まっている。

参考資料
1) 服部毅:「SK Telecomが独自設計のAIチップで半導体市場に本格進出―SKグループ挙げてAIチップの積極的活用を計画」マイナビニュース 2020.12.1.


Hattori Consulting International 代表 服部 毅

編集室注1)現在のキオクシアのホームページでは、株主構成は東芝(40.64%)、BCPE Pangea Caymanグループが56.24%、HOYA(3.13%)の株式を持つ。SK Hynixの名称は含まれていない。その代り、BCPE Pangeaグループを4つに分割し、BCPE Pangea Cayman, L.P.(25.92%)、BCPE Pangea Cayman2, Ltd.(14.96%) BCPE Pangea Cayman 1A, L.P.(9.37%) BCPE Pangea Cayman 1B, L.P.(5.99%)となっている。この内、Ltd. (Limited)と表記されているのは、事業会社でありSK Hynixであることが推察される。ファンドは全てL.P.(Limited Partnership)と表記されておりファンドや弁護士/弁理士事務所やコンサルティング事務所にこの表記が多い。なお、社名にCaymanとあるのは本社をケイマン諸島に登記しているためで、ケイマン諸島は法人税無税の国で知られている。

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