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外国勢と組みさえすれば国プロは成功すると相変わらず勘違いしていないか

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のっけから私事で恐縮だが、かつて本稿著者は、半導体専門誌「月刊Electronic Journal 」(電子ジャーナル社発行、2015年3月号で廃刊)の編集顧問として、「Perspective」と題する巻頭コラムを長年にわたり執筆してきた。そこでは、毎月、日本の半導体政策や半導体産業への提言を執筆してきた。

最近、終活の一環として、自宅に山積みの古い雑誌や書籍を徐々に整理し廃棄しているが、過去に書いた駄文を読み返してみると、新たな政府政策や産官学プロジェクトに再び提言したい内容ばかりである。つまり、過去の提言は、いわばごまめの歯ぎしりにすぎず、半導体関係者は凝りもせず反省もせず同じ失敗を繰り返そうとしているのではないかと思ってしまう。もっとも、全ての国家プロジェクトは「歴史的成果を上げて成功裏に終了した」ことに書類上はなっており、立派な報告書も発行されているから、後進は失敗を反省するすべもなく「成功」の上塗りを繰り返しているのかもしれないが。

国プロは外国勢と組んでも国際競争力向上につながらなかった

日本政府高官諸氏は「半導体の失われた30年の反省を踏まえて大きく政策転換を図る」 という。何を反省したかというと、「従来の自前主義を改めて、海外勢と組む」という(参考資料1)。しかし、今までだって国家プロジェクト(例えばEUV露光技術を開発するプロジェクト)やコンソーシアムに外国半導体企業を招聘してみたけれども、そんな外国勢が国プロやコンソーシアムの研究成果を活用し発展を遂げるばかりで、日本の半導体企業にとって復興、あるいは国際競争力の強化にはつながらなかっただけではないのか。

以下は、12年前の2009年に電子ジャーナル(休刊)に執筆した拙稿全文である(参考資料2)。

世界に開かれた研究拠点へ方針変更

日の丸半導体の復権を目指して1990年代半ばに設立されたコンソーシアムの1つ、半導体理工学研究センター(注1)の2009年度年次シンポジウムが先日横浜で開催された。本シンポジウムの基調をなす招待講演として、経済産業省審議官による「電子・情報技術開発に関する取り組み」と、80年代に半導体生産高日本一、いや、世界一を謳歌したIDMの前代表取締役会長による「グローバルNo.1への挑戦」の2件の講演が行われた。産業構造の変化に対応できず、過去のしがらみに縛られている日本の半導体産業をまさに象徴するかのような人選だった。
それはさておき、高級官僚氏は、講演の最後に、「最近、ベルギーのIMECや米国New York州のAlbany Nanotechを視察したが、研究に国境はなく、国籍も関係なかった。いずれも世界に開かれた研究拠点だった。これに対し、今までの日本の研究拠点は、世界に開かれたとは言い難いものだった」、「平成21年(2009年)度補正予算で手当てできたので、ナノテク研究拠点構想が実現する。IMECやAlbanyを見習ってオープンな研究環境を整え、世界に開かれた研究拠点にしていきたい」と述べた。経産省の技術鎖国政策が金科玉条のように刷り込まれたままの多くの聴衆にとって、「君子の豹変」と映ったかもしれないが、その兆候は以前からあった。例えば、すでに2004年に、IMECを訪問した経産省電子機器課長の言動が、IMEC広報誌に、同社Declerck社長との2ショット写真とともに、次のように載っている。
「彼(経産官僚)は、IMECの今までの研究実績に真に感銘を受け、次第に成功し始めているIMECの日本での研究受託活動を是認した。『日本企業へのメッセージはないか』とのIMEC側の質問に、彼の返事は2語で驚くほど短く誰もが誤解する余地のない明快なものだった。『Be International!』(国際的であれ!)」。IMECは日本の高級官僚氏のこのありがたいお言葉を、ちゃっかりと営業活動に使っている。

世界を利用し尽くす外国勢のしたたかな戦略

IMECやAlbany Nanotechは、果たして世界に開かれたオープンな拠点だろうか。ベルギーのフランダース地方政府のIMEC設立目的は「地域産業振興」と「人材育成」であり、Albany Nanotechの家主であるNew York州政府の目的は「地域産業振興」と同地方における数十万人規模の「雇用創出」である。その目的達成のために、グローバルな規模で不足の研究分担金を募ると同時に、会員企業から優秀な研究者を集めているのだ。地域の産業復興や雇用創出という極めてローカルな目的のために、グローバルな規模で資金と英知を吸い上げて活用する集金・集智システムが上手く出来上がっている。もちろん、顧客が飛びつく価値のある研究実績(あるいはその可能性)と魅力的な研究環境が前提だ。

世界の中で日本の目指す姿を明確にするのが先

一方、日本はどうか。「つくばの巨大クリーンルームの活用策として、ナノテク研究拠点構想がある。しかし、半導体の産官学連携は成果が上がらなかったから今度はナノテクにしようというような考えでは、おそらく成功しない。何をやるかを決める前に、日本をどんな産業が隆盛する国にしたいのか、日本の目指す姿を先行思考すべきだ」と元総合科学技術会議議員の桑原洋氏は警鐘を鳴らしている(注2)。オープンイノベーションは世界に流れだし、グローバル化は必然だが、麻生政権時代のばら撒き補正予算をさらに世界に向けてばら撒くようなやり方は、IMECやAlbanyの戦略戦術とは無縁である。政府系研究機関で盛んに行われている「研究から外国勢を締め出すか締め出さないか」などといった内向きの議論の前に、日本の産業・科学技術の国家政策(ビジョン)と研究開発戦略が問われている。

以上が、12年前の拙稿である。その後、経産官僚らの反省で国研にも国プロ(参考資料3)にも海外企業の研究者を多数招聘したが、国際競争力の強化にはつながらなかったということだろう。2011年に正式発足したEUVリソグラフィ実用化の産官学プロジェクトは、Samsung Electronics、Intel, TSMCなど海外の先進半導体企業に開発パートナーとして参加を要請したことで、オープンイノベーションを徹底させた世界的連携開発体制をベースにした新しいタイプの国家プロジェクトとして、当時の経済新聞が1面のトップ記事としてスクープするほど注目を集めた(参考資料3)。しかし、結果として、EUVの研究成果を持ち帰りデバイス生産へその導入を果たしたのは海外勢だけであった。

IMECには、その後も経済産業省や文部科学省やその傘下の組織から視察団がやってきて、日本でもIMECのやり方を真似しようとしたが、「IMECの研究協業ビジネスモデルは、長年にわたって検討を行い、改良を重ねてきたものであり、(視察に来たぐらいで)決して簡単に真似できるものではない」(CEOのLuc Van den hove氏談)(参考資料4)。外国人を組織に入れさえすれば成功するというような安易な考えでは、失敗を繰り返すだけだろう。研究を成功させるために異文化の英知をいかに活用するか(吸い取るか)という視点が欠落している。しかも、IMECは、海外勢から研究資金を得て顕著な成果あげてフィードバックするために血のにじむような努力をしている。米国でも同様の状況をスタンフォード大学医学部の西野教授は最近紹介しており(参考資料5)、日本の研究費や助成金申請の緩さに愕然としたと指摘している。経済産業省の半導体関連の助成金支給一覧を見て、これで日本半導体産業の凋落に歯止めがかかると思う人が一体どれだけいるだろうか。当事者たちは本気でそういう決意で助成金を受け取っているのだろうか。


1. 半導体理工学研究センター(STARC):1995年に設立し、2016年に解散・清算した産官学連携プロジェクト(株式会社形態の国プロ事業受託組織)。
2. 桑原洋氏:日立製作所副社長、副会長、日立国際電気(現KOKUSAI)会長などを歴任。2009年5月27日につくば国際会議場(茨城県つくば市)で開催されたSelete Symposium 2009の基調講演での発言。「産官学連携はどれも成果が上がっておらずこんなことを続けていては日本の将来は明るくない」として国プロに改革を求めた(詳細は参考資料1参照)。

参考資料
1. 服部毅、「国家ビジョンなき半導体政策では日本を救えない:まず何をすべきか」、セミコンポータル (2021/07/02)
2. 服部毅、「世界に開かれた研究拠点へ方針転換、何のために? 誰のために?」、月刊Electronic Journal、2009年9月号p. 25.
3. 「東芝・インテル・サムスン、次世代半導体でトップ連合、微細化へ共同開発、経産省が支援」、日本経済新聞2009年10月29日1面トップ記事(EUVリソグラフィに関する国家プロジェクト構想に関する日経のスクープ記事)
4. 服部毅、「ハード+ソフトでIoT向けアプリ開発を推進:imecのCEOが語った未来戦略」マイナビニュースECH+ (2018/06/05)
5. 西野精治、「スタンフォード式お金と人材が集まる仕事術」、文藝春秋 (2020年)

Hattori Consulting International 代表 服部毅

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