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臆病な日本の経営者は世界の投資競争から逃げる〜手元流動65兆円を決断せず

「日本の一部上場企業の手元流動資金はついに65兆円まで積みあがっている。あのニッポン絶頂期にあった80年代後半の水準をも上回っているのだ。それなのに大型の設備投資に踏み切らない。研究開発投資をケチる。必要なマンパワー増強をやらないばかりか、給料カットに奔走する。何という情けない姿か」。

うなるようにこうつぶやくのは三菱UFJモルガン・スタンレー証券(株)企業金融推進部特命部長の中村昌雄氏である。同氏は半導体や環境エネルギーなどの先端ベンチャーの発見および育成に全力を挙げているが、それにしても肝心要の大手企業の弱腰振りが気になってならない、というのだ。また、中村氏は、もしかしたら凋落するニッポンを救うのは、現在水面下にいる環境ベンチャー企業なのかもしれない、とさえ口にする。

筆者もこうした事情をわかった上で、大手企業の重役達に対し、「もっと思い切った投資をしてください」と要請することも多い。しかしながら、リーマンショックのトラウマがいまだに響いているのか、大型投資を決断するという声はほとんど出てこない。とにもかくにも社の内部にひたすらお金を積み上げているばかりだ。当たり前のことを言うが、資本主義経済は大規模設備投資と大量消費の両輪で動いており、これが雇用を拡大し、景気が上昇していくのだ。ひたすら金を積み上げるばかりでは、この良き循環のメカニズムがすべて機能不全となってしまう。

2010年のクリスマスイブに至って世界第3位の半導体メーカーであり、ニッポン半導体の盟主ともいうべき東芝が驚くべき発表を行った。なんと、先端のシステムLSIについて、あろうことか最大のライバルである韓国のサムスン電子に生産委託するというのだ。東芝の談話としては、「メモリー事業に集中したい」とのことであり、NAND型フラッシュメモリーの世界シェアをサムスンと争っているわけだが、ここに集中投資するためにこうした措置をとったという。

しかし、どうあっても世界的な半導体投資競争から撤退していく姿が、そこには浮かび上がる。また、これに先だち東芝がらみで誠に不思議な発表も行われた。ソニーが東芝に売却していた長崎工場を500億円で買い戻すというのだ。その理由はスマートフォン向けのCMOSセンサーの生産が逼迫する恐れがあり、あわてて量産体制を整えることになったという。これまた、投資が後手後手になることを意味する。画像向けセンサーの主流が、CCDであった時代にはソニーは圧倒的なシェアを持っていた。その技術の主流がCMOSセンサーに移っていった時にソニーの動きはのろかった。「まだまだCCDでいけるもんね」と笑っていた当時の幹部の談話を良く覚えている。しかして今日、主流となってきたCMOSセンサーの分野において、ソニーのシェアは数パーセントに過ぎない。先見性を持って設備投資に踏み出さなければ、すべてはこうなるのだ。

一方で、サムスンは先ごろ、主力の水原(スオン)工場をしのぐ大型新工場のプランを内定し、あらたに100万坪の新工場用地を確保することを決めた。LGもまた、2011年は、とんでもないスケールの設備投資に踏み出すといっている。こうした動きに対し、日本勢からは小規模投資の話は出てきても、将来に向けた大型投資を決断というアナウンスは一切されていない。

何しろ、2010年度の半導体設備投資を見ても、日本勢は40社が寄って集ってわずか6000億円の投資を実行しているだけだ。これに対し、韓国サムスンはたった1社で半導体投資は1兆円を超えてくる。「サムスンのように思い切った投資をしたいけれど、お金がないのよ」と日本のエレクトロニクス幹部は口にするが、冗談ではない。65兆円も手元流動があって金がないとはいえないだろう。ないのは必要な資金ではなく、戦うスピリッツなのだ。また、世界に一つしかないものを作る、というモノづくりスピリッツも後退している。

年末のNHK番組の「坂の上の雲」の放映が話題となっている。絶対に勝てない、といわれた日露戦争のハイライトである日本海海戦において日本の連合艦隊は旗艦の三笠をはじめ、一隻も失うことなくロシア艦隊をほぼ全滅に追いやった。世界の海戦史上まれにみることであり、まさにミラクルニッポンであった。今、必要なことは大国ロシアに対し、果敢に挑んでいった明治の若者達のスピリッツを取り戻すことではないのか。

産業タイムズ 取締役社長 泉谷 渉
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