パワー半導体の王者Infineonが語る、これからのパワー事業に必要なもの
在日ドイツ商工会議所が主催し、インフィニオンテクノロジーズジャパンが企画事務局となっている日独オクトーバー技術交流会(通称オクトーバーテック)が開催された。Infineon TechnologiesのCMO(チーフマーケティングオフィサー)であり取締役会メンバーでもあるAndreas Urschitz氏(図1)が基調講演を行い、パワー半導体世界トップの実力の理由がわかった。
図1 OktoberTech Japan 2023の基調講演者;名古屋大学の天野浩教授(左)とInfineonのAndreas Urschitz CMO(右) 出典: インフィニオンテクノロジーズジャパン
Infineonの進むべき道は極めて明確だ。「気候変動、地球温暖化はかつてないほどのスピードで進んでいる。社会、経済、すべてがエネルギーを使い、それも化石燃料を大量に消費してきた。この温暖化を遅らせることができるものは革新的な技術しかない。イノベーションはシステム設計からソフトウエア、半導体、そしてOEMなど、さまざまな分野や機能を横切って互いにコラボレーションしなければ実現できない」と同氏は語り、「インフィニオンジャパンがオクトーバーテックというプラットフォームを考案した。このプラットフォームをエコシステムに提供すると、みんなが技術を共有できるようになる。オクトーバーテックを活用することでインスピレーションが湧き、イノベーションのパワーを得ることができる」とオクトーバーテックの意義を語った。
今回のオクトーバーテックでのテーマは、「脱炭素(Decarbonization)とデジタル化(Digitalization)を一緒に推進」である。基調講演の後のパネルディスカッションでも、InfineonのPower &Sensor Systems事業部プレジデントのAdam White氏(図2)は、「欧州の進むべき方向はまず脱炭素化に向いている。従来の化石燃料から風力やソーラーの再生可能エネルギーにシフトしていくことが求められており、Infineonは再生可能エネルギー向け半導体を提供していく。それだけではない。これらインフラ系以外にも消費電力の削減には、アダプティブ充電をはじめ、サーバーやAI向けの電力を下げるために機械学習データを駆使して消費電力を下げる必要がある。日本をはじめとする国際協力でこれを成し遂げる」と述べている。
図2 Infineon TechnologiesのPower &Sensor Systems事業部プレジデントのAdam White氏 出典:筆者撮影
デジタル化が消費電力の削減に寄与することの事例も挙げている。「例えばスマートビルディングでは、センサ、例えばレーダーのイメージング技術を利用すると、部屋に何人いるかがわかり、人数が減れば自動的に室温を下げる。また、太陽光が斜めから指してきた時は自動的にブラインドを下げるなどのテクノロジーを提供する」(White氏)。
これらの言葉から、Infineonはパワー半導体の売上額が世界のトップを行くが、パワートランジスタだけを設計・製造しているわけではないことがわかる。パワートランジスタを駆動するためのドライバICやドライバICに指令を出すためのマイコンなどもパワートランジスタとセットで使われる。Infineonが強いのは、マイコンからアナログのドライバIC、パワートランジスタとワンストップで提供できる点だ。パワートランジスタを使うシステムを熟知しているからできることだ。
今回のオクトーバーテックのもう一人の基調講演者である、ノーベル賞受賞者で名古屋大学未来材料・システム研究所未来エレクトロニクス集積研究センター長の天野浩教授は、「人間でいえばパワー半導体は手足だから、頭脳(マイコンやCPU)も一緒に開発すべき」と述べている。頭脳となる制御部分ではマイコンのCPUだけではなく機械学習(ML)も集積するチップの重要性についてもWhite氏は触れており、今後Infineonがエネルギー制御のためのAI/MLをチップに載せてくる可能性は十分ある。
さらに、マイコンのようにCPUをベースにするコンピュータではソフトウエアは欠かせない。顧客の欲しい機能を提供するためにソフトウエアを揃えることが当然求められる。そして、マイコンにデータを送るためのA-Dコンバータ、センサやその信号を処理するアナログICもセットで必要になる。Infineonはセンサにも強い。これらのシグナルチェーンを構成する半導体製品をどれだけ提供できるかで、パワー半導体の勝負が決まる。
このようなシグナルルチェーンだけではなく、パワー半導体側からのインテリジェント化、すなわちパワーICも提供する。さらにパワー半導体そのものをシリコンのIGBTだけではなくSiCやGaNも揃えている。SiCはもともと京都大学の松波弘之名誉教授が開発した半導体だが、ロームとInfineonが松波教授に教えを請い良い位置につけた。
一口にパワートランジスタといっても、コスト効率の良いシリコンIGBTや高耐圧のSiCのパワーMOSFET、さらに高速のGaNのパワーHEMTなどの種類があり、それぞれが得意・不得意を持つ。SiCやGaNは次世代半導体ではなく、シリコンIGBTと共存していく。Infineonはやや弱いGaNに関しては、カナダのGaN Systemsと買収で合意していたが、10月24日に買収完了を発表した。これにより、どのようなパワー半導体でも提供できるようになった。