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ASMLが中国SMICへのEUV装置を保留、と日経報道

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米中貿易戦争の余波が半導体製造装置の世界にもやってきた。蘭ASMLが中国SMICへのEUV装置の納入を保留していると11月7日の日本経済新聞が報じた。その前の週に米国政府がTSMCに対して華為科技向け製品を出荷しないように求めたという噂もあった。また、ルネサスの決算発表があり赤字に転落したと発表している。東芝の決算発表は13日の予定だが、なぜか10日の日経にリークされている。

7日の日経によると、「ASMLに関わる複数のサプライヤー関係者が明らかにした。同社は2019年末までに中国政府系の半導体大手、中芯国際集成電路製造(SMIC)に対し、EUV(極紫外線)露光装置を納入する予定だった。ただ計画は足元でストップしているという。関係者の一人は『ASMLは中国に最先端装置を出荷して米国を刺激するのを避けるため納入をいったん保留した』と述べた」という。

EUV技術は、ファウンドリのTSMCや、Samsungのファウンドリ事業部門とも7nmプロセスから使われ始めている。しかし、SMICの微細化技術は14nmのテスト量産を始めたところで、まだ立ち上がっていないと聞く。次の7nmプロセスに備えてEUVの量産機ができるようになった今、次の準備に入るために導入すると見るのは自然だろう。

これまでのワッセナール協定(旧ココム)により、中国への半導体製造装置の輸出は1世代前の装置に限られていた。しかし、微細化へのスピードが緩んできた今は、例えば7nmといってもどの寸法が7nmなのか、定義が明確ではなくなっている上に、6nm、5nmプロセスと刻んでいるため、1世代前とは何を指すのかわかりにくくなっている。加えて、ファブレスとファウンドリがIDMよりも大きく成長する時代になってきたことも大きい。つまり、中国の華為の子会社であるHiSiliconが7nmプロセスに合うようにアプリケーションプロセッサやモデムを設計しても、最先端プロセスで製造サービスを行うTSMCが作ってくれる時代になり、ワッセナール協定そのものの意味が実質上なくなってきた。もはや国際的に相互依存の体制が確立してしまっているのである。にもかかわらず、半導体・エレクトロニクス産業の実態を知らない米中政府が自国政府の利益を主張しても、自国の企業が困るだけなのだ。

そうは言っても米国政府は、米国由来の部品やソフトウエアの市場価値が製品全体の25%を超えなければ中国への輸出は問題ない、としている。ASMLの装置は、装置部品の約2割を米国北東部のコネチカット州の自社工場で生産しているため、25%を超えているのかどうかを再検討している、とみるのが自然であろう。ASMLはMicronなど米国の半導体顧客が重要で、米国向けが売上額の16%を占めるという。ASMLにとっては中国市場も重要で、売上比率の約2割が中国向けだと日経は報じている。もっともArFリソグラフィ装置もASMLが強く、中国向けにはArFなどが出荷されている。このため慎重に出荷を検討しているとみてよいだろう。

先週、ルネサスエレクトロニクスの第3四半期の決算発表があったが、2019年1〜9月期の連結決算では74億円の赤字だった(前年同期は619億円の黒字)。売上額は前年同期比7%減の5262億円。IntersilやIDTを買収したものの、相乗効果がないことはさまざまな業界人から指摘されていた。8日の日経によると、早期退職、工場停止などの手を打ち、研究開発費を抑制した結果だという。7〜9月期は最終損益が黒字だったというが、これは工場停止宣言に慌てたユーザーが早めにチップを手当てした駆け込み需要によるもので、この後の反動がさらに怖い。

東芝の13日の決算発表に先駆けて日経が10日に、2019年4〜9月期の最終損益が赤字だが、営業損益は500億円の黒字に回復した、と報じた。売上額は約1兆7000億円で前年同期比4%減だとしている。東芝はキオクシアホールディングスの40%を出資しているため、キオクシアの売り上げは持ち分法投資扱いになり(当然だが連結対象ではない)、営業外損益として計上される。どうやらキオクシアは赤字になった模様で、持ち分法投資損益が悪化した、と日経は表現している。

(2019/11/11)

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