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新技術盛りだくさんのNvidia Jensen Huang CEOのCES 2025基調講演

CES 2025の基調講演において、Nvidia CEOのJensen Huang氏(図1)は3種類のチップをはじめ、「Cosmos」と呼ぶ、バーチャルではなく現実の世界を意識したデジタルツイン向けのAIモデル、ロボットとクルマのような自律運転マシン向けのAI、さまざまなAIエージェントなどを紹介した。極めて盛りだくさんで整理するのに時間がかかるようなプレゼンテーションであった。そのトピックスのいくつかをピックアップする。

NVIDIA CEO Jensen Huang Keynote at CES 2025

図1 CES 2025の基調講演に登場したNvidiaのJensen Huang CEO


これまでNvidiaはゲーム機用のGPU(グラフィックスプロセッサ)からHPC(高性能コンピューティング)やAIへ手を広げてきており、AIへのシフトを強めてきた。ゲーム用GPUはこの1〜2年は伸び悩み、生成AIの超が付くほど高い需要に支えられて急成長を遂げてきた。ゲーム用GPUはもう主力製品でなくなるかもしれないと思われた。

ところが今回のCES 2025の基調講演を見る限り(参考資料1)、むしろ積極的にグラフィックスを強化し、AIを利用してCGと融合させる技術についても述べている。その例として、4Kディスプレイでは3300万画素の内、200万画素だけのグラフフィックスを計算し、残りの3100画素をAIが生成するのだと語った。これがニューラルシェーダーだという。どうやら演算時間のかかるレイトレーシング技術のリアルタイム化にこの技術を使っている可能性がある。基調講演後のBloombergとのインタビュー(参考資料2)の中で、「グラフィックスは永遠だ」と語っている。

ゲーム機などで使われてきたGPU(グラフィックスプロセッサ)であるGeForce 製品をAI製品の範疇にも加えた。このGeForce RTX 50シリーズ(図2)は、昨年発表した最新GPUのBlackwellをベースにしている。920億トランジスタを集積し、AI 性能は4000 TOPS(Trillion Operations per second)で、AI PC仕様の100倍の性能である。グラフィックスとしてのシェーダー性能は125 TOPSと高く、AIとCG(コンピュータグラフィックス)の両方の応用を狙っている。


Nvidia Blackwell GPU

図2 GeForce RTX Blackwellチップ


GeForce RTX 50シリーズに使っているG-7メモリをMicron Technologyから購入していることをHuang氏が基調講演の中で述べたとたん、Micronの株価が上がったという(参考資料3)。メモリのバンド幅は1.8TB/sと極めて高速だ。

デスクトップ用ミニスーパーコンピュータ向けのチップも開発した。デスクトップスパコン「Project DIGITS」(図3)はDGXのシャーシに、強力なGB10 スーパーチップを開発、搭載している。このスーパーチップにはNvidiaのBlackwell GPUとGrace CPUが搭載されており、NVLink-C2C(Chip to Chip)がチップ間をつないでいる。


図3 デスクトップのスーパーコンピュータ「Project DIGITS」


Grace CPUにはArmのCortex-X925が10コアとCortex-A725コアが10個集積されている。AI性能としては、FP4(浮動小数点4ビット)精度で1PetaFLOPSというスパコン並みの性能を示す。これによってAIソフトウエア開発者はクラウド並みのスピードで、デスクトップ上にAIモデルの推論を走らせることが可能になる。このスーパーチップはそのようなAI開発者向けに提供する。

自律運転技術はクルマやロボットを対象とする。クルマは自動運転作りに多数のAI技術が必要である。人とクルマや自転車を見分けるAIだけではなく、走行する道路を覚えたAIも必要で、自動運転車(AV)にはたくさんのAIが必要になる。Nvidiaがトヨタ自動車と提携、次世代のクルマのAI作りに生かす。

現在クルマ用のAIとしてOrinというAIチップを持っており、多数の自動車メーカーに納入しているという。トヨタと共同開発するのは、その20倍の性能を持つ次世代チップThor(ソーと発音)に組み込むソフトウエアやAI モデルなどではないかと思われる。この基調講演で発表したThor(図2)は自律運転の頭脳として働くAGXコンピュータの中核頭脳となる。そのAIチップがいくつもの道路や長い走行距離を走り道路の癖を学習する。自律運転のロボットコンピュータとなるのがThorである。


図4 次世代車載コンピュータThorをかざすHuang CEO


そのような道路やその周辺物などの物理世界を理解し、道路周辺の街灯や歩道などとの距離も理解させることで、運転中の道路の特長を生成するようなAIによってドライブのシナリオを生成する。そのためのAIモデルであるCosmosは自動運転車が奏功する道路を生成し、そのドライブのシナリオを作り、デジタルツインOmniverseで表現するのだ。NvidiaはCosmosをWFM(world foundation models)と呼んでおり、自律車向けの生成AIモデルと言えそうだ。クルマの走行シナリオだけではなく、倉庫内を走行する無人フォークリフトなどのシナリオも生成する。走行シナリオは通常の道だけではなく雪道や豪雨の道路、吹雪の時などもシナリオにいれておく。

生成AI以外のAIは、専用の仕事しかできない専用AIであるが、さまざまな仕事を指示するAIエージェントもそれぞれの業務ごとに作成している。例えば、AI研究アシスタントや人事サポート、財務分析などのAIエージェントを多数用意しており、それぞれの用途ごとにAIソフトウエアも用意しているのがNvidiaの強みである。

参考資料
1. "NVIDIA CEO Jensen Huang Keynote at CES 2025", YouTube, (2025/01/07)
2. "Nvidia CEO Huang New Chips, AI, Musk, Meeting Trump", Bloomberg, YouTube, (2025/01/08)
3. "Micron stock leaps following Nvidia CEO Jensen Huang's CES reveal", The Street, (2025/01/07)

(2025/01/10)
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