スマートグリッドのさらに上を行くデジタルグリッドを東大阿部教授が提案
太陽光発電など自然エネルギー発電が日本の電力網に大量に導入されると、日本全国各地で停電が起きやすくなる。スマートグリッドでさえ不十分、デジタルグリッドの概念の導入が重要なカギを握る。SPIフォーラム半導体エグゼクティブセミナーにおいて東京大学大学院工学系研究科の阿部力也特任教授はデジタルグリッドという大胆な提案を行った。
太陽光発電は日本中で天気の良いところと悪いところが毎日いたるところで存在するため、電力の豊富な所と不足するところが必ず発生する。発電量が多いと周波数は高くなろうとし、発電量が少ないと周波数は低くなろうとする。これを補うために電力の豊富な所から不足する方向に向かって、電力潮流が起きやすくなる。この電力潮流変動が大きくなると出力を制限して電力量を補正する必要が出てくる。さもないと停電に至る事態が起きる恐れがある。
オバマ大統領の提案するスマートグリッドは、消費者の電力消費量をモニターすることで、電力供給量を調整し、送電電力のロスを下げることができるネットワークだとIBMは位置付けているという。グーグルも電力メーターをウェブサイトで見ることができれば電力の無駄遣いは少なくなると考えている。
「スマートグリッドの目的は電力系統なのに、今米国で騒いでいる業界はグーグルやIBMなどのIT業界」(阿部教授)であり、米国IT業界はオバマ大統領のこの提案をビジネスチャンスと考えているようだ。
米国のスマートグリッドは電力網をほぼそのままにして情報系を替えていくシステムであるが、米国では発電・送電・配電業者は同じではない。それぞれの業者が担当する水平分業システムだ。火力・原子力・水力などから発電する発電業者から電力を買い取って送電・配電する事業者は別に存在する。これらの事業者は自由競争を行っている。消費者は電力小売り業者から配電網を通じて電力を購入することになる。阿部教授は、米国では自由競争の結果、送配電インフラ投資がおろそかになり停電が起こりやすくなったと指摘し、もう一度インフラ整備して自由競争させるためにスマートグリッドを使うとみている。その方向性は脱石油だとしている。これに対し、日本は垂直統合システムで発電から送配電に至るまですべて一つの事業者が扱っているため、インフラ投資は着実に行われ、稀に見る高い信頼性を達成している、と同氏はいう。
この電力信頼性の高い日本でさえ、太陽光などの再生可能な発電所が日本全国に設置されると、天候によって発電量が左右されるため、大電力の潮流が起きてしまう。そこで、阿部教授は、従来の同期送配電システムを基幹送電線と非同期分散のマイクログリッドに分離しようと考えた。例えば基幹系統下流の変電所以下を、独立したマイクログリッドにし、電力貯蔵装置と分散電源でそれぞれ独自に周波数調整を行って変動を吸収しようというものだ。周波数調整範囲を少し拡大すれば、電力貯蔵装置の負担を緩和できる。
それでも、小さなマイクログリッドでは電力貯蔵容量に余裕を持たせないといけないが、同氏の考案したデジタルパワールーターを適用して、他のマイクログリッドや基幹系統から必要に応じて電力を融通すれば貯蔵容量を少なくできるという。電力を融通し合うルートがマイクログリッドの数の2乗に比例して増えるため、インターネットのように、さまざまなルートから安定的に電力を供給できるようになるらしい。
重要な産業は基幹送電線から直接電力を受け取り、民生用の電力は自然エネルギーをたくさん含んだマイクログリッドの電力を受け取る。樹木の「太い幹と豊かな葉」のような関係が構築できると同氏はいう。
マイクログリッド間の融通電力量を調整するのにも同じ電力ルートを情報網として活用する。例えば、電力線搬送通信方式を利用し、各マイクログリッドの通過ポイントにIPアドレスを付与しておき、電力を融通し合う問い合わせのプロトコルを定めておく。電力を融通する電力量そのものにヘッダーとフッター情報を付けておき、そのアドレス情報に従って電力の不足しているところへ配電する。こうすれば、電力融通を予約・確定・実施するプロセスが可能となり、電力融通の新しい形態が生まれる。同氏はこれを「デジタル電力」と表現し、この考え方は、各家庭まで発展させることができるという。
阿部教授は、デジタルグリッドによる電力を軸に全産業と全市場に戦略を練るための研究会を提案していく。この新電力系統システムとビジネスモデルを日本国内から世界市場へと輸出することも可能になるとしている。